あんぱんや焼きそばパンも 日本のパンが流行している理由をドバイの文化から紐解く 今後の日本食人気も期待
はるか昔からイランとイラクの間にあるザクロス山脈周辺には、野生の麦が育っていたと言われています。そして、約1万2000年前に粉にした小麦に水を混ぜて焼くという食文化がパレスチナで始まりました。
パンが主食であり続け、命の糧とも言われる中東で、はたして日本のパンが受け入れられるのか、疑問に思われるのではないでしょうか。
ドバイで日本のパンが流行している状況とその理由を掘り下げてみたいと思います。
ドバイってどんな国?
ドバイはアラブ首長国連邦(以下UAE)を構成する7つの首長国のうちのひとつで、大きさは日本の徳島県とほぼ同じです。次からはドバイの歴史と食文化について説明していきます
ドバイの歴史
かつては、アラビア湾のひとつの「漁村」であったと言われるドバイですが、1894年に外国人労働者に対する免税を実施したことで、大きな転換期を迎え貿易業がさらに盛んになります。
そして、1966年に石油が発掘され、今までとは次元の違うような開発がドバイで始まり、私たちの誰もが知るドバイへと発展していきます。2010年には世界で一番高い建築物「ブルジュ・ハリファ」が完成します。この建物は、世界で一番長いエレベーターと一番高いところにレストランがあることでも有名です。
そして、2021年10月から182日間にわたり、ドバイ国際博覧会がUAEの建国50周年に合わせて開催されました。
ドバイには約300万人の人が暮らし、ドバイ独自の特徴から人口の比率はUAE国民が9%に対して、外国人が91%を占めます。国教はイスラム教、国語はアラビア語ですが、英語も公用語として話されています。
パンは中東地域では食べ物以上に大切なもの
中東の気候は小麦の栽培に適していることから、広範囲で小麦が栽培され、各地方で独自のパン文化が発展してきました。ドバイも例外ではなく、伝統的なパンが主食として食べられてきました。
小麦、塩、水、酵母菌で作られる素朴なパンが多く、「エーシュ」と呼ばれる伝統的なパンは、アラビア語の「生きる」にあたる「アーシャ」から派生した言葉と言われています。エジプトでは、死者と共にパンが埋葬されるほど神聖な食べ物です。
日本でも町の至る所にパン屋さんがあり、自宅で気軽にパンが焼けるホームベーカリーも普及しています。すでにパン食が根づいていますが、日本におけるパンと中東地域でのパンでは、人々の意識が異なります。
日本ではお米ひと粒ひと粒に神様が宿っていると言われますが、中東地域におけるパンは日本での稲に近いのではないでしょうか。
日本のパンが流行しているって本当?
さて、上述のようにパンが神聖な食べ物である中東地域で日本のパンが流行していると言われても、容易には想像できないと思われます。
1543年に鉄砲とともに日本に伝わり、外国から伝わったパンが日本人の好みに合うようにアレンジされ「日本のパン」という新しいジャンルが誕生します。そして、麦の原産地である中東・ドバイでオープンした日本のパンを販売する企業が世界中からの注目を集めるほど大躍進しています。
次からは、ドバイで次々と新しい店舗を開店しているパン屋さんと人気メニューを紹介します。こだわり抜いた営業方針を知ると、人気店になり支店が急増していることに納得していただけるのではないでしょうか。
UAE全体で11店舗展開中
出典:https://yamanoteatelier.com/
日本のパンの美味しさに魅了されたアラブ人オーナーは約2年の準備期間を経て、20坪ほどのスペースに「山の手アトリエ」第1号店を2013年にオープンします。
3年後の2016年には、世界最大のショッピングモールとも言われる「ドバイモール」に2号店をオープンし、瞬く間に人気店になりました。同年に、ドバイの金融街に3号店を開業するほど、右肩上がりで成長を続けています。
そして、2017年に大きな転機が訪れます。日本の食文化を中東地区に広めるための「ガルフ・ジャパン フードファンド」の出資先のひとつに選ばれ、日本の大手銀行との取り引きが始まります。この契約がさまざまなつながりを築き、いくつもの日本企業との取り引きが開始します。
アブダビに第4号店を出店後も次々に新しい店舗を展開して、今ではUAE全体に10店舗以上の支店があります。
ドバイでの日本式パンの種類とオーナーのこだわり
店内の様子は、まるで日本のパン屋さんのようにさまざまな種類のパンが並び、内装も日本を思わせる雰囲気を演出しています。
あんぱん、クリームパン、クロワッサンだけでも15種類をこえ、子どもや女性向けにキャラクターをモチーフにしたパンも並んでいます。
材料を日本から輸入するとコストは高くなりますが、日本のパンを再現するために日本製の小麦を取り寄せ、細部にまでこだわったパン作りをしています。他店との差別化を図るため、イートインスペースではライスバーガーをメニューにのせ、日本式のサイフォンを使ったコーヒーも提供する徹底ぶりです。
また、中東の特産物である「デーツ」から作ったソースで味付けをした焼きそばパンがこのお店の人気メニューに上がっています。
甘くてしょっぱい味がドバイの人たちの好みにあったことに加えて、焼きそばパンの人気にはある日本の漫画が下地になってると言われています。
中東で大人気漫画のひとつである「伊賀野カバ丸」(亜月裕/集英社)の主人公は焼きそばが大好きで、作中に「YAKISOBA」が何度も登場します。そのため名前もそのまま「YAKISOBA PAN」で販売されています。
パンだけではなくクッキーなどのラインナップを増やすことにも重点を置き、結婚式等用にも予約が多数入っていると語っています。
順調に店舗数を伸ばしているオーナーは、これからもドバイにはなかった独創的なアイディアでお客さんに喜んでもらい、将来的には中東全体にフランチャイズ店を展開していきたい展望を抱いています。
日本食は今後流行する?
日本食は、ユネスコから無形文化遺産に2013年に認定されました。
その理由は、命となる食を育む豊かな自然に対して尊敬する気持ちを持ち、旨味などの工夫をしながら動物性油脂に偏らない多種多様な食材を用いていることなどが上げられています。
そして、四季のある日本ならではの食文化も大きな要因となりました。新年を迎える時に食べるおせち料理、桃や端午の節句にはその時の旬の食材を使いお祝いする、秋には収穫や豊作に感謝してお供えする習慣があります。
季節ごとの行事と食べ物が結びついている日本独特の文化も無形文化遺産に登録された理由に上げられています。
2006年時点では、およそ2.4万件だった海外にある日本食の店舗数が2019年には、約15.6万件にまで広がっています。
グローバル化が進み食文化も単一化されつつある今だからこそ、評価されている日本食の伝統や魅力を再現することが、次の流行する日本食になると言るでしょう。
2021年9月にヴィーガンのお寿司を提供するカフェが、ドバイにオープンしました。カフェのコンセプトである持続可能な食生活や和食と植物由来の素材との相性の良さに惹かれ、ヴィーガン以外の方からも高い評価を得ています。
多様な食の選択をしている人たちが一堂に会するビーガン寿司は、これからドバイでますます流行していくのではないでしょうか。
まとめ
日本のパンが流行しているドバイの様子をお伝えしてきました。きっかけは、「山の手アトリエ」のオーナーが、日本に滞在中に出会ったパンの美味しさが忘れられずにはじめられた事業ですが、オーナーの徹底したこだわりから日本式のパンを余すところなくドバイで再現できた成果の賜と言ます。
また、中東地域で伝わる伝統的なパンと日本のパンは大きく異なり、日本の食や文化が世界で認められていることも後押ししています。
もともとは海外から伝わった食文化ですが、日本人ならではの創意工夫から独自の「日本のパン」にまで昇華しました。今後も日本のパンはドバイの人々に受け入れられた様に、さまざまな国や地域で多くの人に愛され、食卓を彩る食材となる展望を抱いていただけたのではないでしょうか。