スイーツに山椒が使われる?海外で評価が高まる「Japanese Pepper」を徹底解説

山椒をチョコレートに使う、と聞いたらびっくりしませんか?日本人にはあまり馴染みのない発想ですが、欧州ではすでに珍しいことではありません。
「Japanese Pepper」と呼ばれる日本の山椒は、いま欧州のシェフから評価され、またアジアでは薬膳や漢方の素材としても評価が高まっています。その一方で国内の産地は減り続けてしまっており、価格はここ2〜3年で約3倍に上がりました。
日本人が薬味としてしか知らない山椒に、いま何が起きているのでしょうか。
そもそも山椒ってどんな食材?

そもそも山椒とはどんな食材なのでしょうか。分類や特徴を改めて見ていきましょう。
実はミカン科に属する
分類を見ると、実はミカン科の植物の実です。柑橘を思わせる爽やかな香りがするのは、そのためです。香りの正体はリモネンやシトロネラールといった成分にあります。
そして舌がしびれるあの感覚をもたらしているのが「サンショオール」です。辛味とも刺激とも違う独特の感覚は、ほかの香辛料にはありません。
なぜ山椒は緑色なのか?花椒とは何が違う?
粉山椒が鮮やかな緑色をしているのは、実が熟す前に収穫しているからです。そのまま木に残しておけば、山椒も秋には赤く色づきます。実際、9月下旬から10月にかけて完熟させたものは「赤山椒」と呼ばれます。山椒は収穫の時期によって花山椒、葉山椒、実山椒、乾燥山椒、赤山椒と、4月から10月にかけて姿を変える食材なのです。
ちなみに、中華料理でおなじみの花椒(ホアジャオ)も同じサンショウ属の仲間です。花椒が赤いのは、完熟した実を乾燥させて使うため。つまり山椒と花椒の色の違いは、品種そのものよりも、どの段階で収穫するかによるところが大きいのです。味わいも異なり、花椒のシビレが鮮烈なのに対し、日本の山椒は上品なシビレと爽やかな香りが持ち味とされます。
ぶどう山椒ってなに?山椒の品種とは

ひとくちに山椒といっても品種があります。代表的なものが「ぶどう山椒」です。一見すると不思議な名前ですが、大粒の実がぶどうの房のように連なってつくことから、そう呼ばれています。
一般的な山椒と比べると、粒が大きく、果皮が肉厚。辛味とシビレも強いのが特徴です。この力強さを活かして、粉山椒に加工されることが多い品種です。産地は和歌山県で、全国生産量の約6割を占めます。
意外なことに、この品種は天保年間(1831〜1845年)に、ある農家の庭先で突然変異によって偶然生まれたものでした。ただし紀州と山椒の縁自体は古く、平安時代の『延喜式』にはすでに紀州山椒の記述があります。
もう一つの代表品種が、兵庫県養父市発祥の「朝倉山椒」です。棘のない個体が選抜されてきた品種で、江戸時代には幕府にも献上されていました。果皮が柔らかく、ちりめん山椒や佃煮など実をそのまま食べる用途に向いています。
スイーツに山椒?海外の意外な使い方とは

海外では山椒がどう使われているのでしょうか。おそらく多くの日本人が想像しないのが、チョコレートです。
欧州では山椒がスイーツの素材として使われ、世界的なチョコレートのコンクールでは、山椒を使った作品がいくつも受賞しています。爽やかな柑橘の香りと繊細なシビレが、甘さの中でアクセントとして働くのです。スペインの伝説的レストラン「エル・ブジ」を率いたフェラン・アドリア氏も、日本の山椒を高く評価した一人。フランスの高級レストランでは、フォアグラや魚介料理にも使われています。
ジェトロの支援で欧州に持ち込んだ際には、星付きレストランのシェフから「こんなスパイスは初めてだ」「すぐにでも売ってほしい」という反応が返ってきました。販路も2015年のミラノ万博への出品を皮切りにイタリアへ、その後フランス、英国へと広がり、現在はベルギーやアメリカにも渡っています。
興味深いのは、この評価が日本に逆輸入されている点です。フレンチで使われたことをきっかけに、国内でも洋菓子やクラフトジンへの活用が広がりました。和食の薬味という枠を外したのは、日本人ではなく海外のシェフだったといえます。
アジアで山椒を買っているのは料理人だけではない?

一方、アジアで山椒を求めているのは、必ずしも料理人ではありません。中国、台湾、香港、シンガポールといった地域では、香辛料としてよりも、漢方や薬膳の素材としての需要が伸びています。
背景には、山椒が薬味であると同時に生薬でもあった歴史があります。日本では古くから、食欲増進や消化促進を目的に用いられてきました。この性質が、薬膳や漢方の文化が根づく地域との相性の良さを生んでいます。
実際に輸出の動きも出ています。兵庫県豊岡市の合同会社クリプトファームは、2025年6月から東アジア・東南アジア向けの山椒輸出を開始しました。英語・中国語・韓国語の3言語で販売窓口を設け、現地からの引き合いに対応しています。
欧州は美食、アジアは健康。出口が二つあることが、山椒という食材の強みです。
山椒の増産は大変?
これだけ求められているなら、たくさん作ればいい。そう思うところですが、山椒はそう簡単にいきません。
まず、接ぎ木した苗を植えてから収穫できるようになるまで、およそ10年かかります。よく実がなるのはその後の5〜10年ほどで、1本の木の寿命は20〜25年。今日植えても、収穫は10年後です。
山椒は雌雄異株で、実をつけるには受粉が必要です。そのため雌木10本に対して雄木を1本の割合で植えます。花の咲く時期に好天が続かないと昆虫が動かず、それだけで収穫量が落ちます。
収穫できる期間も極端に短く、適期はわずか10日前後です。しかもほぼすべてが手摘みで、大人1人が1時間で摘めるのは2〜4kg程度。短期間に大量の人手が要ります。
木そのものも繊細です。根が浅いため除草剤は使えず、「刃物を嫌う」と言われるように強い剪定も避けなくてはいけません。「鼻歌を歌いながら収穫すると木が枯れる」という言い伝えがあるように、しっかり管理しないと枯れてしまうため、維持の手間が多くかかるのも増産が難しい点です。
山椒の値段はなぜ3倍になった?
山椒の価格は、ここ2〜3年で以前の約3倍に高騰しました。理由は単純で、需要は増えているのに、作る人が減っているからです。
山椒の生産量は2008年頃まで伸びましたが、その後は生産過剰を経て減少に転じました。2010年代に入ると生産者の高齢化と人手不足が重なり、栽培面積も生産量もさらに減っています。一方で用途は和食を飛び出し、洋菓子、クラフトジン、漢方へと広がり続けています。
しかも先ほどご説明したとおり、増産しようにも実がなるまで10年かかるため、すぐには増やせません。だからこそ、一粒あたりの価値を高める海外展開が必要になります。
その後押しになりそうなのが、2021年に佐賀大学らの研究チームが発表した成果です。山椒をゲノムレベルで分類したところ、日本の山椒は8つの系統に分かれることが世界で初めて明らかになりました。
朝倉山椒のなかにも異なる系統があり、和歌山のぶどう山椒、岐阜の高原山椒、高知の佐川山椒はそれぞれ独自の系統でした。産地ごとに遺伝的な個性があると裏づけられた意味は小さくありません。「山椒」という一般名詞ではなく、産地の名前で売る根拠になるからです。
産地名が品質の証になれば、価格だけで比較されないスパイスとして扱われる道が開けるかもしれません。
※参考:JETRO やぶパートナーズ株式会社「朝倉山椒」で美食の国・イタリアに挑戦
※参考:佐賀大学「日本各地の山椒は特色がある! ~世界で初めて、山椒をゲノムレベルで分類~」
※参考:合同会社クリプトファーム、山椒の東アジア・東南アジア圏への輸出事業を開始
まとめ

日本人が薬味としてしか見てこなかった山椒は、いま欧州では料理人の創造性を刺激するスパイスとして、アジアでは健康を支える素材として、それぞれ別の評価を得ています。
課題は供給側にあります。植えてから10年かかる作物を、高齢化の進む産地がどう守るか。輸出で得た収益を生産者に還元し、担い手の確保や栽培環境の整備につなげられるかどうかが分かれ目です。
世界が山椒を欲しがっている今は、産地にとって数十年に一度の機会かもしれません。
