コロナ禍におけるコンビニおでんの各社対応と、アフターコロナの展望
2020年1月、国内ではじめて新型コロナウイルスの感染者が確認されました。これが、日本におけるコロナ禍の始まりです。その後は感染者の増加と減少を何回か繰り返し、2022年8月時点でもなおコロナ禍は続いています。
2年半以上となったコロナ禍での生活は、人々の消費行動にも大きな影響を与えました。多くの人にとって、生活への密着度が高いコンビニエンスストア(コンビニ)も、大きな影響を受けました。そして、コンビニには欠かせない存在である「おでん」は、コロナ禍前とはどのような変化を見せたのでしょうか。
コロナ禍前後におけるコンビニおでんの状況
まず、コロナ禍においてコンビニがどのような影響を受けたのかを確認します。日本におけるコンビニ業界の成長は、順調なものでした。2008 年以降、日本は人口減少社会となっているのですが、そういった情勢にも関わらず、コンビニ業界は売上高を伸ばし続けて来たのです。
しかしそれは、コロナ禍で一転します。日本フランチャイズチェーン協会が実施しているコンビニエンスストア統計調査の時系列データによると、2020年、コンビニの売上高は前年比で減少に転じます。2021年には回復を見せるのですが、コロナ禍前の2019年の水準には戻せていません。
扱い店舗の減少
コロナ禍の影響は、コンビニの定番商品でもあるおでんにも波及します。2021年11月に発表されたNHKの調査によると、コンビニ主要三社におけるおでんの取扱店舗は、大半の店舗で扱う見込みとしたセブンイレブンを除くと大幅に減少しています。
従来、ほぼ全店舗でおでんを扱っていたファミリーマートは、2021年9月時点での扱い店舗は2割と回答しました。ローソンも、2021年9月時点ではおでんを扱っているのは全店舗の4割と回答しています。
感染対策による想定外の影響
このような形で感染症が問題になる前、おでんは鍋に蓋をせず販売していました。しかしコロナ禍により、感染防止対策が必須となったのです。そこでコンビニ各社とも、おでん鍋に蓋をする、売り場との間に飛沫防止の仕切りを設置するという形で対応します。
出典:株式会社セブン‐イレブン・ジャパン「セブン‐イレブンの新型コロナウイルスに関するお知らせ」
しかし、蓋をすることで、店舗内におでんの香りが広がらなくなります。おでんを購入しよう、という意思決定を行うためにはこの「におい」という要素は大きな意味を持っていたようで、おでんの売り上げが不振に陥った原因のひとつではないか、という指摘がされています。
販売縮小傾向はコロナ禍前から
ただし、コンビニのおでんについては、コロナ禍以前にも販売の縮小傾向が見られていました。このことは、コンビニ業界が抱える慢性的とも言える人手不足が影響しています。
客をひきつける効果が強いおでんは、店舗側にとってはありがたい商材です。その反面、おでんを提供するには大変多くの手間がかかり、そこには人手が必要です。
人口減少社会となった日本では、生産年齢人口はその割合を低下させています。若い働き手の確保が難しくなっているコンビニ業界にとって、手間のかかるおでんの扱いは悩ましい問題でもあります。
コンビニ各社はどのような対策をとったか
ここまで述べてきた通りで、おでんはコンビニ各社にとって重要な意味を持つ商材です。取り扱いを継続し、売り上げを回復させるための方策が出されています。コンビニ大手三社が実施した対策について、個別に見ていきます。
セブンイレブン
コンビニ最大手であるセブンイレブンでは、おでんについても積極的な対策をとってきました。店舗内で調理するおでんについては、透明アクリルカバーを設置し、店舗スタッフが注文を受けておでんをピックアップする形態に変更しており、安心しておでんを購入できるようになっています。
また、おでん種についても、全国共通の具材については価格を抑え統一しました。出口の見えないコロナ禍で節約志向がより強まる中、気軽に買い求めることができる価格設定を行っています。
出典:セブンプレミアム向上委員会「おでん1人前」
さらには、店舗の負荷を軽減するために、おでんパックの販売にも力を入れています。おでんパックの販売はコロナ禍前の2019年9月に始まったもので、一人前と二~三人前の二種類が用意されており、一人暮らしからファミリー層まで、あらゆるニーズに応えることが可能です。
ファミリーマート
ファミリーマートでも、セブンイレブン同様の対策を行っています。おでん鍋には常時蓋をしておき、パネルを設置することで、おでんへの飛沫の混入を防止しています。注文時に、店舗スタッフが具材を取り分ける対応も行います。
価格面ではどうでしょうか。2020年より、鍋おでんの具材価格を86、108円、129円、140円(いずれも税込み)の四つに集約しました。さらに、鍋おでんについては、いくつかの具材を組み合わせた「おでんセット」を三種類設定しています。
出典:ファミリーマート公式ウェブサイト「ニュースリリース 2020年09月09日」
ファミリーマートでは、パックタイプのおでんだけでなく、容器タイプのおでんも提供しています。扱いは一部店舗に限定されるものの、家庭でも「コンビニおでん」を作ることができるように、鍋おでんに使う具材も販売を始めました。
ローソン
ローソンも、各社同様の対策を行っています。おでん鍋をレジカウンター横に配置し「おでんシールド」と名付けた、成人男性にも対応できる高さを確保した飛沫防止用パネルを、売り場との間に設置しました。
出典:ローソン研究所 研究所通信「おでんの販売も新しい生活様式へ。「おでんシールド」とは!?」
おでん鍋の蓋は販売時のみの開放となり、飛沫混入の防止対策として十分と言えるレベルの対策となっています。
価格面でも、カウンターで販売する持ち帰り商品に関しては、エリア限定の一部の具材を除き、すべての具材を税込み90円に統一しています。セット販売も行っており、定番セット、おつまみセットの二種類が提供されています。
出典:ローソン研究所 研究所通信「おでんの販売も新しい生活様式へ。「おでんシールド」とは!?」
これらの対策は、接客時間の短縮とそれに伴う飛沫の防止を実現することも目的としています。
また、フードロス削減の観点から、おでんのつゆを全国統一に変更しました。自宅で気軽にコンビニおでんが再現できるおでん種の販売や、より手軽にコンビニおでんを楽しめるパックタイプのおでんも提供しています。
コンビニおでんの今後について
コンビニおでんを取り巻く環境については、コロナ禍となる前から変化を見せていました。コロナ禍はそれを明確に可視化したと考えることができます。
コンビニ各社とも、従前より進めていた、あるいはこれから進めようとしていたおでんの扱い方を、コロナ禍への対策をあわせて行う形で深化させました。コロナ禍が明ければ、感染対策の必要性はぐっと下がりますので、たとえばおでん鍋から蓋は外され、店内に漂うおでんの香りが購買意欲をそそる状況は、復活する可能性があります。
それでも、ニューノーマルへの対応は進みます。大手コンビニ各社では、デリバリーサービスの充実や、ロボットの導入などを進めています。コロナ禍以前の状態にそのまま戻るということは、考えにくいのかも知れません。
コンビニおでんについても、さらなる変革が必要な時期を迎えていると言えるでしょう。ひとつ、キーワードになるのが「顧客体験の向上」です。人口減少社会の中、生産者年齢人口の比率も年々低下していくわけですから、働き手の確保は今後困難さを増すことも予想されます。
こういった環境でビジネスを継続していくために必要な取り組みは、総じてこの顧客体験の向上に収れんされていくことになるでしょう。コンビニおでんの今後も、その流れの中にあります。
まとめ
コロナ禍は、コンビニおでんをめぐる環境の厳しさを明確にしました。コンビニ各社とも、感染予防だけでなく人手不足といった課題への対応を行うことを余儀なくされています。
これらの対応は、コンビニおでんをより購入しやすくし、選択肢の幅も広げることとなりました。おでんは重要な商材であるだけに、アフターコロナにおける各社の対応には注目すべきであると言えます。