フードテックは食の問題を解決するか 背景・最新テクノロジー・取り組みなど

食は、世界中の人たちから必要とされる巨大マーケットですが、その背景には食糧不足や飢餓人口の増加などの深刻な問題が隠れています。

このような食に関する問題を解決しようと登場したのが、フードテックの考え方です。今回は「フードテックが誕生した理由」「最新のテクノロジーの紹介」「フードテックに対する日本政府の取り組み」についてまとめていきます。

フードテックが誕生した理由

フードテックとは、フードとテクノロジーを組み合わせてできた言葉です。最先端技術を利用して、食に関わる環境を改善するために誕生しました。IT技術の発達により、フードテックはさらなる飛躍が望める新しいマーケットとして、今世界中の企業や研究者たちに注目されています。

フードテックに期待が高まる理由は、国際的な食の問題を解決できる可能性があるためです。では、フードテックがどのような食の状況を改善できそうなのか、詳しく見ていきましょう。

食糧不足の問題

現在の世界人口は約80億人といわれ、2058年には100億人に到達すると予測されています。

出典:UN DESA「世界人口推計2022年版

この急激な人口増加が引き起こす結果は、深刻な食糧不足です。この他にも、地球温暖化による干ばつや台風の影響により、作物の安定供給ができなくなることも食糧不足を引き起こします。

フードテックに求められているのは、食糧の安定供給です。特に農業の分野において、収穫量のばらつきをなくし、人口増加に伴う需要に答えることが期待されています。

飢餓人口の増加

国連の報告によれば、2021年の飢餓人口は8億人を超え、これは世界全人口の9人に1人が飢餓に直面していることを示唆しています。そのほとんどが発展途上国に住む人たちで、将来懸念されている人口増加も発展途上国で起こると予想されています。

飢餓の原因は貧困だけではなく、冷蔵や冷凍など長期保存が可能な設備が整っていない状況も含まれます。飢餓問題は、最終的に子供の栄養不足を引き起こし、乳幼児死亡率を上げることにつながります。

フードテックには、栄養バランスがとれた、しかも長期保存が可能な食品開発が求められています。

労働人口の減少

国際労働期間(ILO)の報告によれば、世界の労働人口は、2015年から2030年にかけて1.6%減少すると予測されています。

出典:ILO Statistics「Major trends in the future of work

この原因は、労働人口の高齢化にあります。特に労働人口の減少が懸念されているのは、農業・漁業・酪農の分野です。最近では、食品生産業や外食産業も人材不足に悩まされており、日本でも問題となっています。

フードテックに期待されているのは、人の代わりとなるロボットの導入やAIを活用した生産管理システムを使用し、省人化をはかることです。

フードテックの最新テクノロジー

フードテックが参入可能なサービスは、「生産・製造」「物流・小売」「調理・消費」の3つに分類できます。食の課題を解決できそうな最新テクノロジーを含め、現時点でのフードテックの可能性について分類別にまとめていきます。

生産・製造

天候に左右される従来型の農業の形を変えるため、現在注目を集めているのは、植物工場という考え方です。植物工場とは、光源にLEDを使用し、土の代わりに培養液で野菜を育てる工場のことです。光の強さや温度・湿度の管理には、IoT技術が導入されています。

植物工場は、食糧の安定供給が望めるため、将来深刻になると予想される食糧不足に対応できる可能性があります。

他にも、1つの食品に必要な栄養素をすべて入れ込んだ完全食は、今後の飢餓人口の増加に対応できる可能性があります。基本的に完全食は、スナックバーやパウダー状の形態が多く、長期保存も可能です。

物流・小売

すでにAmazonが着手している物流の機械化・自動化は、省人化を可能にします。巨大な物流センター内のロボット化は現実のものとなり、今後は自動運転トラックやドローンの活用が期待されています。

中国のEC大手であるアリババは、自動運転トラック運用の実証実験を終え、2022年3月までに合計500台を導入した結果、1000万個以上の配達ができたことを報告しています。

調理・消費

フードテックの最新テクノロジーは、一般家庭の食事にも影響を与えそうです。ネットに繋いで使用するIoT家電の利用は、日本では増加傾向にあります。例えば、シャープが発売した「ホットクック」は、搭載された自動調理レシピに従って材料と調味料を入れておくだけで、料理が一品完成します。

出典:Amazon

IoT家電は、将来的に「レシピ選択・買い物・調理」この一連の流れの管理が可能になるようです。冷蔵庫の中の食材をもとに、AIが利用者の嗜好に合ったレシピと買い物リストを作成し、自動でネットスーパーに注文します。レシピをIoT家電にダウンロードし、ボタンを押せば、料理が出来上がります。

loT家電は、パーソナライズ化に対応できる上に、食品ロスの削減にも貢献できる最新テクノロジーです。

日本政府の取り組み

世界から高い評価を受けている日本食であるからこそ、日本独自のフードテックを生み出せるはずです。ここでは、現在日本政府がフードテックに対して行っている取り組みについてご紹介します。

フードテック官民協議会

農林水産省の新事業・食品産業部では、フードテックを活用した持続可能な産業育成に力を入れようと、2020年10月にフードテック官民協議会を発起しました。2020年10月の時点では、食品企業・ベンチャー企業・研究機関・関係省庁などの団体から約340名が参加しています。

2022年4月に開催された報告会では、植物由来の代替タンパク質源について話し合われました。現在、植物性タンパク質に関しては、100%植物性の食品の定義とその原料を定めた国際規格について協議されている最中です。国際規格が定まったあと、日本独自の植物性タンパク質が決まり、製品化される予定です。

フードテック研究会

フードテック研究会は農林水産省が2020年4月に立ち上げ、これまでに6回の意見交換会が開催されています。参加団体としては、食品企業、ベンチャー企業大学、JSTなどの100の組織が含まれています。

フードテック研究会を立ち上げた目的は、世界に遅れを取らない研究開発の促進・投資環境・ルール作り・社会受容性について意見交換を行うためです。この研究会で重要な点は、フードテックについて官民が一緒になって話し合う場ができたことです。

まずは、フードテックでどのような社会を実現したいのか、官民が同じビジョンを持つことが求められます。

まとめ

今回は、今世界中から注目が集まっているフードテックについてご紹介しました。フードテックが誕生した理由には、食糧不足や飢餓人口の増加、労働人口の減少などの深刻な国際問題を解決できる可能性があるためです。

フードテックの最新テクノロジーとして、今回は植物工場や自動運転トラック、IoT家電をご紹介しましたが、これ以外にもまだたくさんあります。

日本政府は農林水産省を中心として、官民で話し合える場を作り、将来どのようなフードテックを日本で進めていくのかについて絞りこみを始めているところです。

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