日本独自の味?「うま味」が世界で人気の理由
「うま味」は日本で日常的に使われている言葉ですが、現在では海外でも通用するほどの世界共通語となっています。
英語では「Umami」と表記され、食材が持つ独自の味わいを生かした料理に高い人気が集まっているようです。
今回はうま味について解説したあと、「日本のうま味が世界に認められた理由」や「海外で人気のうま味を使った料理」などについて詳しくご紹介します。
うま味とは何か
日本では当たり前のように聞かれるうま味ですが、まずは「うま味とは何か」について解説していきます。
基本味の一つ
人間がおいしく感じる基本味には、甘味・塩味・苦味・酸味・うま味の5つがあります。その中で、料理に深い味わいを与えるという重要な役割を果たしているのがうま味です。
うま味を含む基本味が舌に触れると、まず舌の表面にある味蕾(みらい)が反応します。その後、味蕾で受けた味の刺激が味覚神経を通じて直ちに脳に伝わります。
また、それぞれの基本味には私たちの体をサポートする役割があります。うま味の役割は、タンパク質が体の中に入ってきたことを伝達するシグナル役です。
うま味成分
日本料理には多くのうま味が含まれていますが、その主な物質名としてイノシン酸・グルタミン酸・グアニル酸が挙げられます。
これらのうま味成分は、日本料理には欠かせない、かつお節(イノシン酸)・こんぶ(グルタミン酸)・干ししたけ(グアニル酸)に含まれているため、うま味が日本料理の味の基礎をつくっていることは言うまでもありません。
また、日本の代表的な発酵食品である「みそ」や「しょうゆ」にもうま味が含まれています。
ただ、うま味成分はこれら以外の食材にも存在し、Umamiと英語表記される場合には、チーズやトマト、野菜だしのことも含める場合があります。
特に、イタリア料理ではチーズとトマトをよく使うため、イタリアの食文化にもうま味が根付いているともいえます。
うま味の誕生
現在ではすっかり世界共通語となったうま味ですが、最初に発見されたのは日本です。1908年、東京帝京大学の池田菊苗博士が昆布からグルタミン酸を抽出することに成功しました。
池田博士は昆布から取れただしの主成分がグルタミン酸であったことを発表し、「うま味」と名付けました。その後、イノシン酸およびグアニル酸も発見され、それらもうま味成分として認められ現在に至ります。
うま味は日本独自?世界にもあるうま味
日本には、かつお節・みそ・しょうゆなど、独自のうま味文化があります。イタリア料理にUmamiを含むトマトやチーズが使用されるように、世界中にうま味文化は広がっているようです。
ナンプラー
ナンプラーは、タイの発酵調味料として家庭でもよく使われています。主に、塩漬けしたカタクチイワシを発酵させてつくられた魚醤のことを指します。
酸味・塩味・甘味が一気に味わえ、香りが良いことがナンプラーの特徴です。この特徴を生むポイントは、ナンプラーの製造過程において、原料のカタクチイワシをそのまま塩漬けにすることにあります。
カタクチイワシは未処理の状態で塩漬けにされるため、臓器に残っている酵素がタンパク質を分解しはじめます。その結果、うま味の素となるアミノ酸が生じ、塩味に甘味やうま味を付加するという仕組みです。
テンペ
インドネシアには、テンペと呼ばれるスーパーフードがあります。日本には大豆を発酵させた納豆がありますが、テンペも同様に大豆を原料とした発酵食品です。
伝統的なテンペの作り方としては、茹でた大豆をバナナの葉で包みます。バナナの葉には、カビの一種であるテンペ菌が付着しており、この菌の働きによってテンペができあがります。
マーマイト
イギリス発祥のこげ茶色をしたペースト状の食品といえば、マーマイトです。食べ方としてはそのままトーストに塗るのが一般的ですが、煮込み料理やスープにコクを出すための隠し味としても利用されています。
マーマイトの主な原料は、ビールの製造工程で堆積する酵母イーストです。これにスパイスやハーブを加えて寝かせている間に、酵母に含まれている酵素が働き、マーマイト独自の風味が生み出されます。
このように、魚介類や大豆、その他の食材を原材料としてうま味が生まれ、その国の食文化として根付いていることがわかります。
世界が日本のうま味を認めた理由
うま味成分に対する考え方の違いもあり、欧米ではうま味の存在が長らく認められていませんでした。ここでは、世界がなぜ日本のうま味を認めたのかについて解説します。
うま味国際シンポジウムの開催
1997年、12回目の嗅覚・味覚国際シンポジウム(ISOT)がサンディエゴで開かれた際、5番目の基本味として「うま味」が認められました。
ここに至るまで、うま味についてさまざまな研究が行われていたことは言うまでもありません。
研究例を1つ挙げれば、1985年の第一回うま味国際シンポジウムにおいて、うま味が数学的な解析によって、明らかに他4つの基本味とは異なっていることが発表されました。
この成果が「Umami : A Basic Taste」として出版されたことをきっかけに、Umamiは国際的な言葉となりました。
和食の世界遺産登録
国連教育科学文化機関(ユネスコ)は、2013年12月に和食を無形文化遺産として登録したことを発表しています。
ここでいう和食とは、「日本人の伝統的な食文化」のことを指します。同時に、うま味を上手に利用することで動物性油脂の摂取を抑え、日本人の肥満予防と長寿に貢献していることも強調されました。
このユネスコ登録が、現在も続く和食ブームの火付け役となったことは間違いないでしょう。
日本人シェフの活躍
和食が世界遺産登録されたあと、国際的に活躍する日本人シェフたちがうま味の良さを世界に広めました。
「MATSUSHITA」や「NOBU」など、世界の大都市でレストランを経営する日本人シェフ松久信幸氏は、ニューヨークやロンドンで「Sake and Umami Dinner」というイベントを開き、うま味を活かした料理を紹介しています。
このような活動のおかげで、海外シェフたちの間でもUmamiに対する意識が高まりつつあるようです。最近では味噌とチーズを混ぜたり、そうめんをチーズとトマトで味付けしたりと、とても斬新な創作料理のレシピ開発が進んでいます。
世界で人気の日本のうま味を使った料理
世界共通語となったうま味は、すでに海外のレストランメニューにも掲載されているようです。ここでは、アメリカとシンガポールで人気のうま味料理をご紹介します。
うま味バーガー
アメリカのロサンゼルスにあるハンバーガーショップ「UMAMI BURGER」では、うま味のある食材をぜいたくに使った「THE UMAMI BURGER」が人気です。
チーズや牛肉を食材として使用し、昆布や干しキノコ、しょうゆなどをブレンドして仕上げたうま味ソースが決め手のハンバーガーです。
アメリカで最も人気があるお店ともいわれており、2017年には日本に初上陸を果たしました。
うま味カクテル
うま味は料理だけではなく、飲み物にも活用できます。シンガポールで評判の高いレストランバー「Native」のドリンクメニューには、しいたけ由来の蒸留液を使用したカクテルが掲載されています。
しいたけ以外にも、トマトやしょうゆを使用し、それぞれの食材に含まれるうま味が総合的なカクテルの味を引き立てています。
特に、しいたけに含まれるうま味成分グアニル酸と、トマトに含まれるグルタミン酸はとても相性が良く、うま味の相乗効果が生じているようです。
まとめ
日本で誕生したうま味は、現在では共通語Umamiとして世界各国で知られています。
うま味が基本味として認められた背景には、研究者やシェフたちの大きな活躍があったことが伺えます。
すでに、海外レストランのメニューにうま味食材を使用した料理が載せられるようになっており、今後も新たなうま味食材の組み合わせが生まれることを期待できるでしょう。