原発処理水放出による中国輸出への影響と今後の貿易

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2023年8月24日、この日から東京電力福島第1原子力発電所に貯蔵されていた原発処理水の海洋放出が始まりました。これから30年以上をかけて、廃炉への道をたどっていくことになるようです。

しかしながら、この原発処理水の放出が中国への輸出に大きな影響を与えていく懸念があります。

今回は、原発処理水放出前の中国輸出の状況や原発処理水の放出開始による日本企業への影響、中国政府が発表した輸出規制措置の内容について解説していきます。

処理水放出前の中国輸出の状況

ここでは、中国向け水産物輸出額の処理水放出前の状況を確認していきます。

日本の水産物輸出の相手国としてトップに立つのは中国、それに続くのが香港です。

2022年農林水産省の統計によれば、中国への水産物輸出額は871億円、香港は755億円と報告されています。中国への輸出額は水産物輸出総額の約22.5%を占めており、香港では約19.5%、中国と香港を合わせると約42%の比率になります。

出典:農林水産省「2022年農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)」

このことから、中国が日本にとって重要な水産物輸出の相手国であることは言うまでもありません。そのため、中国が現在行っている水産物に対する輸出規制は、日本の水産業に大きな痛手となると考えられています。

2023年9月5日、農林水産省が2023年7月における農林水産物・食品の国・地域別輸出額を公表しました。

出典:農林水産省「2023年7月 農林水産物・食品の輸出額(9月5日(火)公表)」

中国向けの水産物輸出額を見てみると、2023年1〜7月では533億円、2023年7月単体では77億円です。また香港向けの水産物輸出額を見てみると、2023年1〜7月では575億円、2023年7月単体では60億円となっています。

中国へ輸出する日本企業の実際の影響

ここでは、原発処理水の放出が日本企業に対して実際にどのような影響を与えているかについて解説します。

中国へ輸出されている水産物の約半分は、ホタテが占めています。この状況の中で始まった日本に対する輸出規制は、処理水放出開始から約1週間で水産加工業者へ影響がではじめているようです。

宮城県石巻市でホタテの養殖・加工会社「ヤマナカ」は、香港向けに生のホタテ貝柱を輸出しています。現在は週1回のホタテの出荷が止まったことに加えて、日本国内向けのホタテの買い手を見つけることも難しくなっているのが現状です。

結果的に約4億円相当のホタテ100トンの保管を強いられることになり、大きな負担となっています。

なぜ中国は輸出規制に踏み切ったのか

中国は原発処理水放出の開始日に、すべての日本産水産物に対して輸出規制を行うことを発表しました。

なぜ中国が日本にこのような厳しい輸出規制を決めたのか、ここではその理由について解説します。

神田外国語大学の興梠一郎教授によれば、今回の中国の輸出規制は経済的威圧の意図があると伝えています。

2023年7月23日、日本政府はアメリカからの要請を受け、中国に対して先端半導体製造装置を含む23品目の輸出規制に踏み切りました。

輸出規制を行うということは、輸出するときの手続きが厳格化するという意味です。例えば、中国に露光装置を輸出しようとした場合、経済産業大臣の許可をもらうことが毎回要求されます。

輸出手続きを厳しくすることで輸出困難となり、結果として相手国に経済的威圧を与えることが可能です。つまり、今回の日本に対する中国の輸出規制は、先端半導体の輸出規制への対抗措置とも考えられます。

ただ、野村経済研究所のエグゼクティブ・エコノミストである木内登英氏によれば、この水産物輸出規制による日本への経済的打撃はそこまで大きくはないとの見方です。

その理由は、日本の輸出全体を見たときの中国向け水産物輸出の比率が2022年のデータで0.17%と低いことにあります。もしこの輸出規制が1年続いたとしても、日本のGDPが0.03%下がるだけとの見解です。

中国政府の輸出規制措置内容

2023年8月24日、中国政府は原産地が日本であるすべての水産物の輸入を全面的に暫定的に停止することを公表しました。ここでいう水産物には、ホタテやアワビなどの食用水産動物も含まれます。

中国は、日本の農林水産物・食品輸出の最大貿易相手国であることは言うまでもありません。

農林水産省の報告をもとに、2022年の中国向け水産物の輸出額をランキングにしてみると、467億円でホタテが第1位、続いてナマコが79億円で第2位、40億円でカツオ・マグロ類が第3位という結果になります。

出典:農林水産省「2022年農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)」

おそらく上記に挙げたすべての水産物が、今回の輸出規制の対象品目となっていると考えられます。

また、中国の国家市場監督管理総局は食品生産事業者による日本産水産物の買付け、それらを使用して加工・調理・販売することを禁じると発表しています。

参考:農林水産省「ALPS処理水の海洋放出に伴い規制を強化した国・地域に関する情報」

中国以外の輸出規制措置内容

中国以外のエリアでも輸出規制は行われています。ここでは、香港とマカオが現在日本に対して施行している措置内容について解説します。

香港

香港は中国とは異なり、日本の10都県に対して輸出規制を行っています。

具体的には2023年8月24日時点で、福島県・宮城県・茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・千葉県・東京都・長野県・新潟県を原産地とする水産物・海塩・加工品を含む海藻に対して輸入禁止が公表されました。

ここでいう水産物に含まれるのは、生きている状態だけではなく、冷蔵品や冷凍品、乾燥させた状態の商品も対象となります。

参考:農林水産省「ALPS処理水の海洋放出に伴い規制を強化した国・地域に関する情報」

マカオ

マカオの輸入規制措置において香港と異なる点は、禁止品目が多いことです。原産地の10都県は香港と同じですが、生鮮食品・動物性食品・海塩・海藻が輸入禁止品目として挙げられています。

生鮮食品には野菜とフルーツが含まれ、動物性食品には牛乳・乳製品・水産物・水産製品・肉・肉製品・卵などが含まれます。

参考:農林水産省「ALPS処理水の海洋放出に伴い規制を強化した国・地域に関する情報」

中国輸出の今後

日本政府が決めた原発処理水放出に対し厳格な輸出規制措置を決めた中国政府ですが、一部ではこの厳格な措置が「裏目に出る」との報道もあります。

中国の水産流通加工協会の会員の話では、中国政府は処理水放出を「核汚染水の海洋放出」と述べており、単に国民に不安をあおっているだけだと述べています。

消費者が水産物に対して不安を持ちつづければ購入を控える方向に動き、結果的に中国の水産物市場に悪い影響を与えるとの見解も出てきているのが現状です。

しかし、日本の水産物輸出品を品目別に表した以下のグラフからもわかるように、日本産水産物の輸出相手国は決して中国だけではありません。

出典:水産庁「(4)水産物貿易の動向」

ブリにおいては約69.5%を米国が占め、カツオ・マグロ類に関しては約半分がタイやベトナムなどの東南アジア諸国へ輸出されています。

日本政府は中国の輸出規制に伴い、現在早急な日本産水産物の販路拡大を目指しています。今回の水産物輸出規制が有効ではないと分かってきたとき、中国政府の今後の対応も変わってくるのかもしれません。

まとめ

今回は、日本の原発処理水放出に対する中国輸出への変化について解説しました。

中国への水産物輸出額を2022年と比較した場合、顕著な伸び率の低下が確認できたことに加えて、放出開始から約1週間で日本の水産業者に影響が出ていることもわかりました。

ただ、日本産水産物の輸出相手国は中国だけに限らず、日本政府も販路拡大に向けて動き始めています。今回の厳格な輸出規制がいつまで続くかは不明ですが、中国消費者の対応によっても変化が見られるかもしれません。

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