ヴィーガン大国のイスラエル 日本食展開の可能性はあるか 両国の関係や歴史

イスラエルでは現在、様々な日本食が多くの人から支持され、熱い視線を集めています。日本食の代表格である寿司だけに留まらず、ラーメンや豆腐もイスラエル人の暮らしの中に定着しつつあります。

それでも遠く離れたイスラエルと日本では、食文化の接点も決して多くはないことから、その日本食人気は一時的なものと思われるかもしれませんが、必ずしもそうではないのです。

この記事では、イスラエル独自の食文化や日本との関係、そして日本食がどのくらい浸透しているのかを詳しくお伝えします。

イスラエルの食文化

イスラエルは、1948年に建国された新しい国です。建国後、世界中に移り住んでいたユダヤ人が戻り、「それまで暮らしていた土地の食文化」と、長い歴史の中で受け継がれてきた「イスラエル独自の食文化」が融合します。

そのため、イスラエルの食文化は多種多様でありながら、ユダヤ教の考えを受け継ぐ伝統的な面を併せ持っています。イスラエルでは、約74%がユダヤ教徒、約18%がイスラム教を信仰し、約2%がキリスト教徒と言われています。

イスラエル国内で多くの人が信仰するユダヤ教には、独自の食の規定があります。イスラム教にも戒律がありますが、ユダヤ教の規定とは異なり、ユダヤ教徒ではない人と一緒の食事はできないと言われることがあるほど、細部にわたるユダヤ教独自の教えがあります。

イスラエルと日本の関係

イスラエル建国から4年後の1952年に、イスラエルは日本と外交関係を結びました。東アジアで初となったイスラエルとの外交関係は、政府間や経済関係に加えて、文化や学術の分野など様々な形で途絶えることなく現在も交流が続いています。

宗教や文化などが異なることから、一見するとイスラエルと日本では共通項が少ないと思われますが、イスラエル人と日本人の共通項はどちらも勤勉であることだと言われています。良質な仕事に仕上げるために腕や技を磨き上げる熱心な姿勢が似ていると評価されています。

イスラエルと日本の外交関係樹立70周年を記念して、在日イスラエル大使館でイベントが開催されました。日本の伝統文化である書道を介して友情や平和を文字に託し、日本語の「和」の文字が中央に書かれたポストカードがつくられました。

また、数は少ないながらも「正統派」と言われるイスラエル料理を食べられるレストランが、観光客の多く集まる東京を中心に営業しています。ひよこ豆やオリーブオイル、にんにくなどでつくるペースト「フムス」や、そら豆やハーブをあわせた中東のコロッケなどが食べられます。

イスラエルで日本食は浸透しているのか

日本食はイスラエル国内に広く浸透し、人口に対して日本食レストランの数が東京、ニューヨークに次いで、世界で3番目に多いと言われるほど人気を博しています。

ユダヤ教における食物規定があるものの、世界中に離散していたユダヤ人がイスラエル開国と同時に集まった背景から、厳格に規定を守っているユダヤ教徒ばかりではなく、食事に対して柔軟性を持って暮らしている人たちも多くいます。

また、ユダヤ教による考えからベジタリアンになる人も多く、日本の伝統食である豆腐もイスラエルの人たちに受け入れられています。

インターネット上にある検索サイトを使い、テルアビブの日本食レストランを探すと、70件以上ものレストランが見つかります。また、在イスラエル日本大使館によると、イスラエル国内には、様々なスタイルの「スシバー」が約400店舗もあるといいます。

多くの日本食レストランは、ビジネスマンや観光客の集まるテルアビブに集中していて、規模の大きなモール内には、かなりの高確率で寿司を提供する日本食レストランが開業しているようです。

さらに、インディカ米のような細長いお米ではなく、丸みを帯びて水分を多く含んだ日本米もスーパーで売られ、醤油やみりんなどの調味料も販売されています。

食に対して緩やかな考えを持つ「世俗派層」だけではなく、ユダヤ教の規定を忠実に守る「超正統派」と呼ばれるユダヤ教徒までも寿司を楽しむようになりました。それだけ、イスラエル国内で日本食の人気が高まり、食の規定を遵守したスタイルの日本食レストランも高い需要に合わせて柔軟に営業しているのです。

イスラエルではどんな日本食が人気?

日本を旅したイスラエル人が国に帰り、日本食のおいしさが忘れられずにイスラエルで日本食レストランをはじめたり、イスラエル人と結婚した日本人が移住し、お店を開業したりするケースがあります。

寿司

世界中で日本の寿司が多くの人たちに受け入れられ、寿司を提供するお店が世界各国で定着しているように、イスラエルでも日本食の中で一番人気は寿司です。日本の寿司屋で見られる定番の寿司が食べられるお店もあれば、イスラエル人向けのメニューを提供するスシバーも数多く見られます。

カリフォルニアロールのように海苔が内側にくる「裏巻き」や特大の太巻きをカラリと油で揚げた「揚げ寿司」、「巻きずし」をテリヤキソースやピリ辛のタレをつけて食べる寿司なども販売されています。

そして、大きな舟盛りにのった新鮮な魚のお刺身を食べられるレストランもあります。「超正統派」のユダヤ教徒も魚は食べますが「海と湖に住み、うろことヒレのあるもの」に限られています。そのため、エビやイカは食べられませんので、それら以外のお刺身を食します。

ラーメン

寿司や刺身を通して日本食のおいしさがイスラエルに定着すると、寿司以外の日本食もイスラエル人の間で食べられるようになりました。

はじめは寿司だけを提供したお店で、ラーメンが人気メニューになるなど、今では日本のラーメンが寿司の次にイスラエルで熱い注目を集めています。ユダヤ教の教えでは、豚肉が使えないために、多くのラーメンは「世俗派層」向けのメニューになりますが、豚骨を使わずに「超正統派」のユダヤ教徒も食べられるラーメンを提供するお店も開業しています。

それほど日本のラーメンは多くの人に好まれるメニューになり、イスラエル国内で広く浸透しています。

焼肉

イスラエルでも日本の焼肉が食べられるお店が増えていて、中には日本から取り寄せた七輪で、焼肉が食べられるお店もあります。

他にも、日本の焼肉屋で修行した経験を役立て、「サシ」の入った焼肉を提供するお店や、イスラエルの都心・テルアビブにまで支店を出すようになったお店もあるほど、日本の焼肉の需要が高まっています。

ヴィーガン人口の多いイスラエルで注目を集めている日本食とは?

イスラエルは「ヴィーガン大国」と例えられるほど、動物性のものを全く取らないヴィーガン(ビーガン)やベジタリアンの人がたくさんいます。

ユダヤ教の教えに沿うと、動物性のものに食物規定があるため、野菜なら自由に食べられることからベジタリアンが多いと言われています。ヴィーガンは人口の約5%、そして約8%の人がベジタリアンになり、動物性食品を取らない人の割合が13%と、世界で3番目に多い国になります。

そんな中、肉類でも乳製品でもない日本の伝統食である豆腐は、別け隔てなくイスラエルに定着し、スーパーでは当たり前に見かけるほど市民権を得ています。また、豆腐料理をメインに出すレストランも連日賑わいを見せています。

最近になり道徳や健康上の理由から、様々なNGOや活動家が菜食をすすめていることも、イスラエル国内でのベジタリアン人口の増加を後押ししています。

日本の企業との合同研究で、新しいタンパク源として注目を集めている「フードテック」の研究もはじまっています。

「フードテック」は、「フード」と「テクノロジー」を組み合わせてできた新しい言葉です。環境への負担を軽減し、十分な食料を確保するために、植物由来の「代替肉」などの研究が進められています。

まとめ

イスラエル国内で外食産業を継続していくのは難しいと言われ、開業から5年後に営業を続けているお店は全体の約2割のようです。それでも、日本食の人気は衰えることなく、新しいお店も続々とオープンし、日本食で一番人気の寿司だけではなく、ラーメンや豆腐も多くのイスラエル人に愛される食べ物になっています。

日本食は、素材や調理方法をアレンジできる柔軟性があります。食物規定を守るユダヤ教徒にもヴィーガンやベジタリアンであるイスラエル人向けにも、表情を変えながら喜んでもらえる食事であると言えるのではないでしょうか。

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