ノルウェーが広めたサーモン、鮭を生で食べる習慣がなかった日本市場へ 今では寿司ネタ人気No1
サーモンは、今や回転寿司の人気ネタとして知られていますが、1980年代までは生で食べられることはなかったことをご存じでしょうか?
今回は、サーモンが生で食べられていなかった理由や、食べられるようになった理由、現在の輸入状況などについて詳しく解説します。
寄生虫を恐れた日本人は生サーモンを食べなかった
日本において鮭は、江戸時代にはすでに食べられていました。しかし日本人が生でサーモンを食べるようになったのは、わずか35年程前からです。それまでは、日本でサーモンは「生で食べてもおいしくない」「生のサーモンは色がおかしい」などと言われていました。
また、鮭にはアニキサスという寄生虫がいる場合があり、アニキサスが寄生している鮭を生で食べると、人によっては激しい腹痛を起こしたり、腸閉塞を起こしたりする恐れがあります。このようなことからも、鮭は生食には向かないと考えられてきました。
ちなみに、鮭にアニキサスが寄生している理由は、鮭が餌として食べるオキアミにアニキサスの幼虫が寄生していることがあるためです。それに対してサーモンは養殖でペレットと呼ばれる人工餌を食べているため、アニキサスはいません。
つまり、サーモンは生で食べることができるのですが、鮭とサーモンの違いがあまり知られていなかったためサーモンが生で食べられることがほとんどなかったのです。
ノルウェー人が伝えた生サーモン
日本人が生サーモンを食べるようになったのは、あるノルウェーのビジネスマンがきっかけでした。
ノルウェーはサーモンの養殖に世界で最初に成功した国でしたが、他の国でもサーモンの養殖がさかんになり、冷凍のサーモンの過剰在庫が問題となっていました。
そこで、水産ビジネスマンのビョーン・エイリク・オルセン(Björn Eirik Olsen)氏は、生の魚を食べる文化がある日本にノルウェー産のサーモンを輸出することを考えつき、ノルウェー政府の依頼を受けて日本にサーモンを受け入れてもらえるよう、取り組みました。
初めは高級寿司店の受け入れに取り組みましたが受け入れられず、ターゲットを回転寿司へと変更しました。高級寿司店では「身の色が白いのでおいしそうに見えない」と言われたため、おいしそうに見えるオレンジ色の身を持つ養殖サーモンの開発に取り組みました。
ビョーン・エイリク・オルセン氏は、回転寿司のチェーン店で店頭の食品サンプルにサーモンがあることを見た時に、日本でサーモンが受け入れられたことを確信したそうです
また、一般の人の認知度を高めるために、当時「アイアンシェフ」として人気が高い石鍋シェフに協力を求め、ノルウェーサーモンを彼のレシピに加えてもらうことにも成功しました。
さらに、天然の鮭と区別して生で食べられることをアピールすることも重要だと考え、「サーモン」という呼称を新しくつけて広めました。その結果、新しいメニューの開発に取り組んでいた回転寿司店で新しいネタとして受け入れられ、回転寿司に欠かせないネタの1つとなったのです。
今では、サーモンは安価で脂がのっておいしいネタとして子どもから大人にまで人気があります。マルハニチロが2022年に行った「回転寿司に関する消費者実態調査」では、「回転寿司店でよく食べるネタ」として、マグロを抑えて11年連続で1位を獲得しています。
ノルウェーのサーモンの特徴
水産物のほとんどが輸出されるノルウェーは、世界第2位の水産物輸出国です。
ノルウェーにとって日本はアジアで最大のサーモン市場。2021年の日本への輸出量は前年比15%増の3.7万トンです。また、サーモントラウトの輸出量は、前年比25%増の5.682トン。ノルウェーのシーフード輸出の中で、1位と2位の輸出量となっています。
参考:PRTIMES「ノルウェー水産物審議会 2021年水産物年間輸出統計の実績を発表」
ノルウェーのサーモンは輸入金額の上位を占めており、日本で楽しまれているサーモンのほとんどがノルウェー産だと分かります。
また、ノルウェー産のサーモンには次のような特徴があります。
ほとんどがアトランティックサーモン
ノルウェーで養殖されているサーモンは、アトランティックサーモンがほとんどです。
アトランティックサーモンは、サケ目サケ科タイセイヨウサケのこと。大型で脂がよくのっており、肉も厚く美しいピンク色をしています。甘みととろけるような食感があり、生で食べるのはもちろんのこと、フライやムニエルなど加熱しても美味しく食べられます。
養殖なので、1年を通して供給されることが可能。日本のスーパーマーケットにあるサーモンの90%はアトランティックサーモンだといわれています。
ノルウェーサーモンと呼ばれるブランドがある
アトランティックサーモンには、「ノルウェーサーモン」と呼ばれるものもあります。ノルウェーサーモンは、ノルウェーで育てられたアトランティックサーモンで、厳しい基準をクリアした餌や水で養殖されたものを指します。
いわば、アトランティックサーモンのブランド名にあたり、日本の寿司屋や料亭だけでなく、フランスやイタリアの店でも使用されています。
塩サバの輸出量も多い
ノルウェーにとって、日本はアジア最大のサーモン市場です。日本人の多くもノルウェーのサーモンを楽しんでいますが、実はサバもノルウェーから輸入しています。
ノルウェーではサバを食べないため、1980年頃までは他の養殖魚の餌として使用されていました。しかし、マグロを買い付けに来た日本の冷凍漁船があまったスペースにサバを積んで帰ったことから、日本へのサバの輸出が始まりました。
2021年には、5.4万トンのサバが日本に輸出されており、日本に直接輸出されたサバとベトナムや中国を経由して日本に輸出されたサバの合計は、前年に比べると15%も増えています。
現在、日本で流通している塩サバの80%はノルウェー産。ノルウェー産のサバは、大西洋サバの1種で、脂肪が他の産地のサバよりも30%も多いという特徴があります。
まとめ
生サーモンは、今では日本料理に欠かせない食材ですが、35年程前まで鮭を生で食べることがありませんでした。鮭の寄生虫を恐れ、鮭は必ず火を通して食べるのが基本でした。
そのような中ノルウェー人が広めたサーモンは、加熱しないと食べることができない鮭と違って生で食べることができるため、あっという間に日本の食卓に定着しました。
今では日本食の代表料理である寿司のネタとして、サーモンは海外でも人気です。国によってはマグロよりも人気があるほど。また、サーモンは脂がよくのっていて子どもも大好きなので、生の魚を食べる寿司に抵抗がある場合でも、サーモンなら食べることができるという人もいます。
サーモンが日本で食べられるようになって35年がたち、幼少の頃からサーモンに親しんできた人が増えています。そのため、これからもサーモンの人気は続くことが予想されます。