魚を生食する習慣のないイタリアで寿司が普及 クリームチーズを使った巻き寿司も誕生
外国人がイメージする日本の料理として最初に挙げられることが多い寿司は、世界各地に普及し、多くの人々から愛される存在となっています。
食に対しては保守的と言われるイタリアですが、2015年のミラノ万博や周辺諸国からの影響もあってか、近年日本食がブームとなっています。中でも寿司は、そのヘルシーなイメージからも高い人気を得ており、街には日本食や寿司を提供するレストランも増えてきました。
今回は、そんなイタリアで普及している寿司事情についてご紹介します。
寿司はイタリアで食べられている?
今日のイタリアでは、テレビドラマや映画の中に「今夜は寿司を食べに行こうか?」といった台詞が登場することがあります。メディアの効果は大きく、寿司という食べ物の知名度は日を追うごとに上がっていますし、人気もかなり高いと考えることができます。
しかしイタリアの寿司は日本の寿司に馴染んだ人が見た場合、その様子がかなり違うことに驚かされるかもしれません。
まずイタリアの主流は日本の握り寿司ではなく、巻き寿司です。巻き寿司も「裏巻き」と呼ばれる、海苔が裏面に出ているものが好まれ、日本的な外側が黒い海苔巻きを見ることは多くありません。
巻き寿司の種類は豊富で、定番となっているカリフォルニアロールやレインボーロールをはじめ、フルーツロールも見られます。お店によってはオリジナルの巻き寿司を提供するところがありますし、巻き寿司にソースをかけて食べることも少なくありません。
人気の寿司は?
寿司のネタとして人気があるのはサーモンです。サーモンはイタリア料理でも使用されることが多く、他の魚は食べないけれど、サーモンだけは生で食べる人も少なくありません。サーモンの食べ方としては、握りはもちろん、クリームチーズとあわせた巻き寿司も人気があります。
クリームチーズとお寿司、というのは意外に思われるかもしれません。実はアメリカでもフィラデルフィアロールというスモークサーモンとクリームチーズを具にした巻き寿司は一般的で、世界的に見ると組み合わせとして珍しいものではないと考えてよいでしょう。
このように、イタリアの寿司には思いがけない食材がネタとして使われることがあります。エビフライなどの揚げ物やレモン、玉ねぎのような個性の強い食材を活用することで、バラエティに富んだ寿司を提供しています。
その一方で、基本的に生魚を食べる習慣がないためか、イタリアの寿司では魚の種類が日本ほど多くありません。マグロやスズキ、タイ、エビ、飛子あたりが組み合わされることが多く、日本で定番のタコやイカを扱うお店は少なくなります。
寿司の食べ方の特徴としては、日本より醤油を多く使用するという点が挙げられます。生魚のにおいを苦手とする人が多いようで、それを消す目的で醤油を多めに使っているようです。
そもそも、寿司とは?
昨今世界中で食べられるようになった寿司。その種類や食べ方も多様化してきています。しかし「寿司とは何ですか?」と質問されたとき、正確に回答できる人はあまり多くないのではないでしょうか。ここからは、知っておきたい基礎知識として「寿司とは何か」を説明します。
寿司の定義と種類
一般的な寿司の定義は、酢飯と生鮮魚介類で構成される食材を組み合わせた料理のことです。
酢飯をシャリ、あわせる食材をネタと呼びます。ネタには魚介類だけでなく、肉類や鶏卵、野菜なども用いられます。
寿司には、さまざまな種類があります。寿司という名前で最初に想起する人が多いであろう握り寿司はバリエーションのひとつに過ぎません。家庭でも食べる機会が多い巻き寿司はアメリカで独自の発展を見せましたし、巻き寿司同様にいなり寿司やちらし寿司も多く食べられています。
寿司の歴史
意外なことに、寿司の起源は日本ではありません。東南アジアの山岳民族が生み出した「なれ寿司」が起源とされています。発酵の力を借りたなれ寿司の技術は、入手困難であった魚介を長期保存することを目的に生み出されたものです。700年代に、稲作とともに中国経由で日本になれ寿司が伝わってきました。
このなれ寿司は、発酵に長い時間を必要とするものでした。1300年代から1500年代にかけて、さほど時間をかけず米まで一緒に食べることができる、早なれ寿司が誕生します。
1700年代前半には食酢が広く使われるようになり、発酵の必要がない早寿司が登場しました。1800年代前半には、握り寿司が考案されます。当初の握り寿司はサイズも大きく、切り分けて食べられていました。現代の2貫でワンセットという握り寿司の提供スタイルは、この時代の名残です。
イタリアに寿司が登場したのは?
アメリカのような移民による日系人コミュニティが形成された国々では、比較的早い時期から寿司を提供する飲食店が存在していました。
イタリアの場合はそういったことはなく、日本料理店の嚆矢とされるレストランの開店は1970年代となります。実際に寿司レストランがミラノに開かれるのは、日本が平成を迎える頃でした。
食には保守的とされ、魚を生食する習慣のないイタリア人にとって、生魚の存在感が大きい寿司は受け入れがたいものであったのでしょう。実際に寿司が普及したのは2000年以降、中華系のチェーン店がイタリア全土に広まってからのことになります。
生魚を食べるのは危険?
三方を海に面した半島国家のイタリアですが、実は意外なほどに魚を食べる習慣がありません。基本的には、油漬けにされたものを食べることが多くあります。
また、鮮魚は売られる前に必ず一旦冷凍されます。これはアニサキスという寄生虫への対策という面があります。南部など一部地域には生魚を食べる習慣をもつ地域もありますが、基本的にイタリアでは生魚を食べる人は多くありません。
それでも、生活のシーンで寿司は身近な存在になっており、生魚への忌避感情は薄らいできていると考えることができます。イタリアでは寿司を食べるときに醤油を多めに使いますが、醤油には食中毒の原因となる病原菌を死滅させる効果があるので、イタリアの人たちは無意識のうちに安全な食べ方をしていることになります。
寿司職人は手袋を着用するなど、調理する側の衛生管理もしっかりしています。今日のイタリアで生魚を食べることに、なんの問題もありません。
イタリアで寿司はさらに広まるか?
現在のイタリアで、寿司は一般的に受け入れられています。寿司店については、主に中国系の人たちが経営するイタリアの風土にあわせた比較的リーズナブルなお店と、日系の人たちによる本格派のお店に二分されている状況です。
今後イタリアで寿司がさらなる広がりを得るためにキーポイントとなるのは、生魚をおいしく食べるために必要となる、良質な醤油と日本酒の存在でしょう。
イタリアでは、生魚をおいしく食べるための手法が根付いていません。また、イタリアで寿司に合わせるお酒は白ワインが主流ですが、脂が乗った青魚は、白ワインの長所を活かすことが難しい面があります。
より寿司に合った醤油と、寿司を食べるのに最適な日本酒がイタリアで広まることで、寿司の可能性はさらに大きくなることが期待できます。日本式の寿司へのニーズも、徐々に増えていくのではないでしょうか。
まとめ
食に対して保守的とされるイタリアでも、寿司は支持を広げています。
生食に向いた鮮度の良い魚が入手しやすい土地柄ということもあり、より寿司にあった調味料や酒類が定着することで、寿司店へのニーズは高まり、本場日本酒や加工食品の需要増も期待できそうです。