日本の牛乳・乳製品の海外での評価とは?輸出拡大の課題と展望

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訪日旅行客の増加に伴い、近年日本の牛乳や乳製品が海外から注目を集めています。

日本と海外では牛乳の殺菌方法や安全基準が異なっているため、仕上がりの味にも違いがあるようです。

今回は、日本の牛乳および乳製品に対する海外からの評価について解説したあと、現在日本の牛乳・乳製品が抱えている課題や今後の輸出拡大の可能性についてご紹介していきます。

日本と海外の牛乳の違い

ここでは、日本と海外の牛乳における殺菌方法と安全基準の違いについて解説します。

殺菌方法

牛乳を殺菌する方法として、日本では「超高温瞬間殺菌法」が主流となっています。この方法では、120〜130度の超高温下で2秒間殺菌しますが、この殺菌時間が牛乳の最終的な風味に大きく影響を与えているようです。

たとえば、台湾国内の牛乳の殺菌にも「超高温瞬間殺菌方法」が使われていますが、殺菌時間は3〜5秒と日本よりも長く設定されています。

このように殺菌時間が数秒長いだけで、乳成分に変化が生じ、結果的に牛乳独特のにおいが発生します。この独特のにおいが子どもの牛乳嫌いの原因といわれていますが、日本の殺菌時間であればにおいを気にすることなくおいしく飲めるようです。

安全基準

日本の牛乳は冷蔵販売が当たり前ですが、フランスをはじめとするヨーロッパでは常温販売が通常です。フランスでも日本と似た「超高温瞬間殺菌方法」が採用されていますが、なぜ常温販売が可能なのでしょうか。

実は、フランスの牛乳の安全基準は日本と異なり、140〜150度で2〜4秒殺菌することを「超高温瞬間殺菌法」と定めています。また、保存方法についても常温で約90日間、日本でいうロングライフ牛乳の感覚で販売されているのがフランスの牛乳です。

殺菌時間が長く、牛乳のにおいを強く残しているのがフランスの一般的な牛乳の特徴といえるでしょう。

日本の牛乳・乳製品の海外での評価は?

現在、訪日旅行客を中心に日本の牛乳と乳製品のおいしさが広まりつつあります。ここでは、日本の牛乳と乳製品に対する海外からの評価についてご紹介します。

日本の牛乳に対する評価

日本では、コンビニやスーパーマーケットなど、さまざまな場所で牛乳を購入できます。そのため、旅行中に日本の牛乳を試してみる観光客も多くいるようです。

海外からの人気を特に集めているのが北海道産の牛乳です。北海道の牛乳がおいしい理由には、気候が大きく関係していることがわかっています。

乳牛は暑い環境下ではストレスを受けてしまい、乳が出にくくなる一方で、涼しくて湿度が低い環境であれば快適に過ごすことができます。

出典:よつ葉乳業株式会社 未来へつながるグローバル事業

たとえば、北海道札幌市に本社を構えるよつば乳業株式会社が販売する「よつ葉牛乳」は、海外の牛乳には見られない濃厚な味わいが残る牛乳として定評があります。

日本の乳製品に対する評価

乳製品を製造する際の原料はもちろん牛乳です。新鮮な北海道産の牛乳を原料とすれば、作られる乳製品も品の高いものになるでしょう。実際のところ、北海道産の牛乳を使用したアイスクリームやソフトクリームを絶賛する声が海外から寄せられています。

例を挙げれば、洞爺湖(とうやこ)近くにある牧場「レークヒル・ファーム」で販売されているジェラートは、その種類の豊富さとクリーミーな味わいが外国人観光客をとりこにしています。

出典:レークヒル・ファーム 商品紹介

このほかにも、レークヒル・ファーム内ではゴーダチーズやモッツァレラチーズなども販売されており、そのフレッシュさに外国人観光客も満足しているようです。

日本の牛乳・乳製品のアジアでの拡大とEU市場での輸入解禁

ここでは、日本の牛乳・乳製品のアジアに向けた市場拡大と、EUへの輸出解禁について詳しく解説します。

アジアでの市場拡大

日本の牛乳・乳製品の市場拡大先として、現在主に輸出されているのはアジアの国々です。

よつ葉乳業株式会社は、すでに自社の牛乳をシンガポールと台湾向けに輸出しています。北海道ブランドの認知度が高いため、パッケージに北海道の形を印刷した「特選よつ葉牛乳」をスーパーで販売しています。

同社によれば、高所得者の間での需要が増えたことで、牛乳の輸出量は新型コロナウイルス流行前と比較して大幅に増加しているとのことです。牛乳以外に、粉ミルクやアイスなどの乳製品もアジア向けに輸出されています。

農林水産省の発表では、2023年1〜6月の期間において、ベトナムとフィリピン向けに粉ミルク、台湾と中国向けにアイスクリームの輸出増加が顕著であったことが報告されています。

日本のアイスクリームの需要が高い理由は、日本を訪れた際においしいアイスクリームやソフトクリームを食べた経験が影響しているようです。

出典:農林水産省輸出・国際局 2023年1ー6月 農林水産物・食品の輸出額

EU市場での輸入解禁

EUには、EU向けに牛乳・乳製品の輸出が可能な国を載せた「第三国リスト」があります。

2019年3月6日、このリストへの日本の追加がEU官報に掲載され、これを機にEU向けに日本の牛乳・乳製品の輸出が解禁されたのです。

また、日本はEUと経済連携協定(EPA)を結んでいるため、日本産の牛乳・乳製品に対する関税はかかりません。無税となることで、欧州へ向けた日本の牛乳・乳製品の輸出がさらに拡大する可能性が広がっています。

他国と比較した日本の牛乳・乳製品の課題と展望

日本の牛乳と乳製品の需要が世界的に高まりつつありますが、いくつかの解決すべき課題がまだ残されています。

牛乳の値段の高さ

他国産牛乳と比較して、日本産牛乳の値段が高いことは課題の一つです。世界で一番牛乳が安いといわれている国は、ドイツです。ドイツの牛乳1リットルあたりの価格は約78円、一方の日本は約222円と、最も高い値段と報告されています。

この問題の解決方法としては、輸出時の輸送方法を変更することが考えられます。近隣国に向けては、飛行機で輸出する代わりに海上コンテナ輸送を採用すれば安価で済みます。

牛乳の賞味期限が短い

最大の課題といわれているのが、日本の牛乳は賞味期限が短いことです。フランスのように、約90日間常温保存できるロングライフ牛乳が主流の国も多くあります。

この課題を解決するには、新しい梱包材や牛乳充填機を導入するなどし、チルド牛乳の賞味期限を10日ほど伸ばす必要がありそうです。今後は賞味期限の延長をすることで、輸出できる国を徐々に増やしていくことが目標です。

生産者数に対して生産量が少ない

日本における酪農の問題は、乳牛1頭あたりの乳量が他国と比較すると少ないことです。例を挙げると、デンマークの乳牛1頭あたりの年間乳量は1万kg以上であるのに対して、日本は7千kg程度です。

日本では牛乳が安定供給されるシステムが確立しており、牛乳の品切れはほぼ発生しませんが、日本の乳牛にはまだ乳量を増やせる余力があると考えてよいのかもしれません。

現在、牛乳は貿易食品として扱われています。牛乳の輸出に対応していくことで、国内産の牛乳の需給調整が可能になります。これは、乳業メーカーにとってメリットとなるでしょう。

まとめ

今回は、日本の牛乳・乳製品に対する海外からの反応についてご紹介しました。

日本の牛乳は生産工程での殺菌時間が短いため、牛乳の独特なにおいをあまり感じない点がおいしく飲めるポイントのようです。また、アイスクリームやソフトクリームは外国人観光客に非常に好評で、これがアイスクリームの輸出増加にも影響を与えていることがわかりました。

今後は、牛乳・乳製品の輸出をアジアやヨーロッパ、そのほかの国々へさらに広げていくことで、日本の酪農業界は新天地を開拓していけそうです。

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