エジプトで日本食人気は広まるか コロナ禍での課題や輸入規制撤廃が鍵
日本食は世界中で認知され、そのおいしさや健康食という観点から、多くの人を魅了しています。それでも、日本から遠く離れたアフリカ大陸では、日本食がどれだけ有名なのかを知っている人は少ないのではないでしょうか。
実際エジプトでは日本食レストランが続々とオープンし、注目を集めています。また、エジプトのスーパーの輸入食品の棚には、日本の調味料やのり、豆腐などの食材が並んでいます。
しかし日本食がエジプト全体に普及しているとは言い難く、知名度もあまり高くありません。
そこで今回は、エジプトでの日本食事情について紹介しながら、今後エジプトでの日本食展開の可能性について考察していきます。
エジプトでの日本食事情
日本から約9700km離れているエジプトでも、日本食が注目され、日本食のレストランが営業しています。インターネットでエジプトの首都「カイロ」で日本食が食べられる場所を検索すると、約70店舗も見つかります。
中には、多国籍料理を提供しながらメニューの一部として日本食を出している店舗もありますが、本格的な日本食が食べられるレストランもあります。
また、輸入食品を提供するスーパーマーケットでは、しょうゆや味噌、わさびなどの調味料に加えて、のりや豆腐などの食材も販売されています。在庫があるときには、そばやうどんなどの乾物も購入できるほど、日本の食材が流通しています。
エジプトで好まれる日本食の例
世界に通じる日本の有名なものと言えば、「Sushi」や「Teppanyaki」などが挙げられますが、エジプトも例外ではありません。
また、ほとんど無関係に見えるエジプトで食べられているお米も日本米と深いつながりを持っています。
寿司
エジプトでも一番人気の日本食は、寿司です。数多くの寿司レストランが営業し、日本で食べられるような握り寿司が食べられるお店や、「カリフォルニア巻き」のように見た目の華やかさにもこだわった、外国人に喜ばれる寿司を出すお店もあり、さまざまな寿司が楽しめます。
エジプト人を含め外国人の好みに合うようにアレンジされた寿司を提供するチェーン店は、エジプト国内に約20店舗もの支店を展開しています。
日本人シェフが腕を振るう寿司屋では、カツオのたたきや石狩鍋などもメニューにあり、寿司以外にも豊富な種類の日本食が楽しめます。七夕など季節ごとの限定メニューを創作し、原材料にこだわり三陸産のいくらを取り寄せるなどの工夫もしています。
鉄板焼き
エジプトでは、大きな鉄板があるテーブルに座り、シェフが目の前で調理してくれる日本式スタイルの鉄板焼きのお店が人気です。新鮮でおいしい料理を食べられるだけではなく、シェフの楽しいパフォーマンスが評判になり、賑わいを見せています。
シェフが日本人ではない店舗でも、店内には大きな扇子で和の雰囲気を演出するレストランや日本らしさを意識して和牛、味噌汁などをメニューにのせるところもあります。
エジプト在住、観光で訪れた日本人だけではなく、エジプト人、エジプトで暮らす外国人にも多くのファンが見られます。
日本米
エジプトでは、小麦を使ったパンやパスタも主食として食べられていますが、実はお米もエジプト人の主食のひとつ。またそのお米は改良して作られた日本米です。
1917年に、当時のエジプト政府が人口の増大を予測し「生産奨励品目」にお米を指定します。インド、中国、スペインなどのさまざまなお米が約250種類集められ、エジプトの気候風土によくなじみ、生産量も高い日本由来の「ヤバニ米」が選ばれ、100年以上にわたり、エジプトで栽培され続けています。
「ヤバニ」は、アラビア語で日本という意味になり、さまざまな種類の「ヤバニ米」がスーパーマーケットで販売され、エジプト人に親しまれています。
今後の日本食の可能性
世界的に新型コロナウイルス感染症が広がる中で、エジプトでもさまざまな規制が行われ、新しい動きや課題が生まれました。
また、2020年に原発事故後の輸入規制がなくなったことで、新型コロナ感染症の収束に伴い、日本食がより一層浸透していく兆しがエジプトで見られます。
次からは、エジプトに残るコロナ禍での課題と輸入規制撤廃について見ていきましょう。
参考:外務省「エジプトによる日本産食品に対する輸入規制の撤廃」
コロナ禍での課題
2011年から「アラブの春」と言われる大規模な反政府デモが起こり、デモなどの影響を受けて、エジプトへの観光客が大幅に減少していました。
2020年になると、「アラブの春」以前のように、多くの観光客が海外から訪れると予想されていました。その矢先に新型コロナウイルス感染症が拡大し、エジプトでは3月に感染対策のために国際線の運航休止が実施されます。
そして、2020年3月25日から6月26日まで、配達や持ち帰りなどの一部の例外を除いて、飲食店は終日営業休止になります。日本食レストランを開いているお店も例外ではなく、売り上げは大幅に下がります。
6月になると座席数の25%まで、7月には50%までの入店ができるようになります。人々のウイルスへの抵抗感が薄れたことや深夜の営業が可能になったこともあり、徐々に客足は戻ってきているものの、新型コロナウイルス感染症流行前のような状況には至っていません。
課題から生まれた新しい視点
多くの飲食店と同じように、日本食レストランでも宅配やお弁当の持ち帰りに力を入れて、営業を続けますが、売り上げが落ちたことに加えて、日本から取り寄せていた食材や調味料が手に入らなくなる問題に直面します。
しかし売り上げは減少したものの時間的余裕が生まれたことから、調味料などをエジプト国内で代替できるように工夫をしたり、現地の食材を生かして新たな商品開発などを試みたりしました。
現地スタッフの教育や指導にも時間を費やし、新型コロナウイルス感染症以前の活気が戻ってきたとき、利用者により質の高い食事やサービスで喜んでもらえるようにできる限りの工夫を実践しています。
原発事故後の輸入規制撤廃
2011年3月に起こった東日本大震災の原発事故後、エジプトでは日本からの食品の輸入を規制していました。しかし、2020年11月にエジプト政府は輸入規制を撤廃します。
輸入規制以前と比較すると、日本からの食材の輸入はしやすくなりましたが、コロナの影響でその恩恵を大きく受けるのは、これからになりそうです。
エジプトでフルサービスを行うレストランの数は、新型コロナウイルス感染症の影響で前年比約14%減少して約3120店舗になりました。しかしながら、毎年約7%の増加が見込まれていることから、2025年には、4300店舗にまで増加するという予測が立てられています。
国内外からの旅行者が大きく戻るときには、今回の輸入規制撤廃が日本食レストランにとって追い風になることは間違いないでしょう。
また、エジプトシェフ協会(ECA)では、定期的に日本食講座をプロのシェフに向けて開催しています。多くのニーズがあるようで、今後もエジプトでますます日本食の人気が高まっていく様子がうかがえます。
参考:ジェトロ「日本食は寿司が人気の中心、輸入規制に撤廃の動きも(エジプト)」
まとめ
ヨーロッパやアメリカ、またはアジアでの人気の高さにはまだ及びませんが、アフリカ大陸にあるエジプトでも着実に日本食が普及し、今後も広がる兆しが見えます。
また、コロナ禍で見えた課題に対応していくことや、日本からの輸入規制撤廃を受けた対策を練ることで、今後新たなニーズや今まで日本食に興味を持っていなかったエジプト人からも注目を集められると言えるのではないでしょうか。