中国の輸入停止措置が続くホタテの現状と日本の取り組み
福島第1原子力発電所に蓄えられていた処理水の海洋放出が開始されたのは、2023年8月のことです。この際に中国政府が取った対応が、ホタテを含む日本産水産物の輸入停止措置でした。
輸入停止措置から半年以上が経過した今、日本におけるホタテ事情には少しずつ変化が見えはじめているようです。
今回はホタテの現状に加えて、日本政府のこれまでの対応や、日本産ホタテの人気が急上昇している国などについて詳しく解説していきます。
中国の輸入停止措置が続く今、ホタテの現状は?
中国政府は、現在も日本産水産物に対する輸入停止措置を続けています。ホタテは日本の食品輸出における主力であったため、漁業関係者にとても大きな影響を与えているようです。
北海道中小企業団体中央会は、水産物に携わる会員組合を対象に、輸入停止措置による影響に関する調査を2023年9月に行いました。
結果として23の組合から回答が得られ、そのうち10組合が「影響がある」、9組合が「影響はない」、残り3組合は「わからない」と答えています。影響があったという回答の具体的な内容は、莫大な量の在庫です。
ホタテの輸出が滞ることで自社の倉庫が満庫となり、冷蔵および冷凍倉庫の収容能力が問題となっていることがわかりました。
このような状況の中、北海道にある森町は保管されていたホタテ約10万食分を買い取ることを決めました。森町は水産業が主産業であるため、中国の輸入停止措置の影響を特に強く受けた町です。
森町の岡嶋康輔町長は水産会社に保管されていた大量のホタテを買い取り、全国の学校給食に無償で提供しました。岡嶋町長は、全国の子どもたちにホタテを味わってもらいながらも、今後はホタテの販売経路を広げていく方針を示しています。
一方、青森県ではふるさと納税を通じて、青森県産の活ホタテやホタテ加工品の消費拡大を目指しています。ホタテを返礼品に選んでもらうことで、問題に直面しているホタテ事業者をサポートすることが目的です。
日本の世界に対する輸出の取り組み
中国向けのホタテの輸出が禁止されて以来、日本政府もホタテの輸入拡大に向けて取り組みを続けています。ここでは、世界で人気が出始めた日本のホタテ事情について解説します。
アメリカ
2023年10月、ジェトロ(日本貿易振興機構)と在ロサンゼルス日本総領事館は、日本産水産物のプロモーションについて話し合うために「水産部会」を立ち上げました。
この水産部会において、レストラン関係者から、日本産の水産物をアピールするために協力したいとの意見が多数あったようです。
これを受けてジェトロは、アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスおよびアリゾナ州フェニックス周辺にある71の現地レストランにおいてプロモーションを実施しました。
このプロモーションの目的は、各レストランで日本産ホタテを使用した新しいレシピを開発してもらい、メニューとして定着させることでした。
約2週間の期間中、新規メニューに対し約5,000件の注文があり、日本産ホタテの利用額は約500万円以上に達したことが報告されています。
プロモーションに参加したレストランからは、これまでなかなか食べる機会がなかった日本産ホタテを使用することで、新たな顧客獲得につながったとの声が聞かれました。
イギリス
現在、日本食ブームが起こっているイギリスにおいても、日本産ホタテは人気があるようです。
新型コロナウイルス流行の影響によって4年ぶりとなった「ジャパン祭り」が、2023年10月にロンドンで開催されました。実はこのイベントにおいて、日本産ホタテのバターしょうゆ焼きが振る舞われています。
ホタテを試食したハント財務相は「おいしい」とコメントし、ほかの参加者からは「安全基準に従っているなら処理水放出は問題ではない」との前向きな意見も聞かれました。
また、日本産ホタテは甘味が強いため、そのままでも食べられることが特徴といえます。
ロンドンにある日本食レストラン「MUGEN」では、生食もしくは軽くボイルする程度で提供することで日本産ホタテのおいしさに付加価値を持たせようと、現在メニューを考案中です。
今後はイギリス国内で、日本産ホタテを使用した新規メニューがさらなる消費を生むかもしれません。
新流通ルート?日本のホタテに注目している国々
中国向けにホタテの輸出ができなくなって以降、日本政府も新たな流通ルートを模索しています。ここでは、今後新規流通ルートとなる可能性がある3つの国についてご紹介します。
メキシコ
現在ジェトロは、メキシコ国内で生食用ホタテを加工する方向で計画を進めています。処理水放出が開始される以前は、主に中国で殻付き冷凍ホタテを生食用に処理していました。
今回、中国に代わる場所としてジェトロが選んだのがメキシコ北部にあるエンセナダ市です。
エンセナダ市は、アメリカ向けのホタテをロサンゼルスまで約4時間半でトラック輸送できる距離にあります。日本食人気が高まるアメリカにホタテを輸送するには、最適な場所といえるでしょう。
アメリカでは貝の毒を防ぐ目的で、加工されていない二枚貝の輸入が禁じられています。エンセダナ市であれば、殻を取り除いたホタテの貝柱を冷蔵の状態でアメリカ本土へ輸送することが可能となるのです。
ベトナム
前述のメキシコ同様に、中国に代わる加工の候補地となっているのがベトナムです。2023年12月、農林水産省はすでにベトナム現地での視察や商談を求める事業者の募集を済ませています。
2022年には約3〜4万トンの加工ホタテがアメリカ向けに輸出されたと推定されており、中国に代わって同等の量を処理できる施設の確保が急務となっているのが現状です。
候補となっているベトナムの加工施設は、食品安全の国際基準であるHACCP認証を受けているため、日本以外の国への輸出が可能です。おそらく、今後はアメリカだけではなく、ヨーロッパへの輸出拡大も検討されていくことでしょう。
韓国
新たなホタテの輸出ルートとして挙げられている国の1つに、韓国があります。
日本政府は、2025年におけるホタテの輸出額の目標を656億円と設定しており、そのうちの41億円分を韓国に割り当てています。しかしながら、韓国政府はこれを受け入れていません。
韓国は福島・茨城・千葉・栃木・群馬・青森・宮城・岩手の8県からの水産物の輸入停止措置を2013年9月から実施しています。
韓国政府は今後もこの措置を続けていくことを明らかにしており、日本政府が掲げる2025年目標については、「日本側の計画に過ぎない」という見解を示しました。
日本のホタテの今後
ジェトロは、商談を成立させる目的で海外バイヤーを産地へ招待したり、FOODEX JAPANのような大型食品展示会にも積極的に招いたりしています。
食品展示会では、質の高い日本産水産物を海外バイヤーへアピールする手段として、試食や有名シェフによる調理実演、トークセッションを実施しています。
寿司や刺身などの日本食は世界で人気があるため、中国に代わるホタテの輸出相手国を今後増やせる見込みが十分にあるかもしれません。
まとめ
今回は、中国の輸入停止措置が継続される中での日本産ホタテの現状とそれに対する日本政府の取り組みについてご紹介しました。
中国はホタテの輸出相手国第1位であったため、日本の水産業者に与えた影響はかなり大きなものでした。この状況を受けて、日本政府も新たな輸出ルートを模索中であり、現時点ではイギリスおよびアメリカでの日本産ホタテ人気が伺えます。
このほかにも、ホタテを加工するメキシコやベトナムなどの施設について日本政府はすでに本格的な行動を取っており、海外バイヤーへのアピールについても積極的に行っています。
質の高い日本産ホタテには、まだまだ伸びしろがあると期待を持ってよさそうです。