食品業界における物流の2024年問題と解決策
現在、日本政府が進める働き方改革によって起こるであろう2024年問題に関心が集まっています。これは物流に関わる問題であるため、特に食品メーカーにとっては早期に取り組むべき課題です。
今回は、この2024年問題をわかりやすく解説し、解決策も含めて紹介していきます。
物流の2024年問題とは
物流の2024年問題とは、簡単に言えば「ドライバーの労働時間に制限がかかることによって起こり得るすべての問題」を指します。
日本政府による働き方改革は、大企業では2019年、中小企業では2020年から施行されていました。物流業界における2024年問題で最も懸念されているのは、ドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されることです。
この結果、これまでと比較してドライバー1人あたりの走行距離が短くなり、長距離での輸送が難しくなります。また、この状況がさらに発展して物流業界の売上が減るとともに、個々のドライバーの収入が減ることも考えられます。
この問題がいつから始まるのかというと、2024年4月です。じつは、働き方改革法の施行は2024年3月まで猶予期間が与えられており、本格的な施行は2024年4月1日からとなります。
時間外労働時間の規制を守れなかった場合には、懲役または罰金という強制力のある罰則が設けられています。
参考:公益社団法人全日本トラック協会「トラック運送業界の働き方改革 実現に向けたアクションプラン(解説書) 【概要版】」
食品業界の物流課題
食品は私たちの生活にとって不可欠なものです。ここでは、食品業界が2024年4月以降に抱えると予測される物流課題について解説します。
長い構内待ち時間
トラックドライバーの仕事には運転だけではなく、貨物の積卸しや選果場での仕分けなどの作業も含まれることが問題です。
上記の2020年国土交通省の報告より、加工食品や生鮮食品、酒・飲料などの食品物流の構内待ち時間は、他と比べて長いことがわかります。
30分以上待たされたケースは、加工食品943件、生鮮食品460件、酒・飲料328件、これらすべてを合わせると全体4387件のうち約40%は食品物流が占めています。
構内での待ち時間が長くなる背景には、荷卸しが先着順であるため早めに到着し、受付待ちをしていることが挙げられます。トラックドライバーの拘束時間短縮の対策として、この待ち時間の長さも考慮すべき項目です。
トラックドライバーの人手不足
2024年問題おける物流以外の課題として、トラックドライバーの人手不足が挙げられます。
食品を全国に運ぶ主な手段はトラックであり、環境への負荷を考慮した鉄道や船舶への転換はまだ進んでいません。トラックが輸送形態であれば、食品の輸送には多くのトラックドライバーが必要です。
しかし、国土交通省の2020年報告によれば、2011年(平成23年)以降トラックドライバーの人手不足が顕著に現れています。
2020年11月時点での全職種の有効求人倍率が1.00であるのに対し、貨物自動車運転手(トラックドライバー)は1.88と高く出ています。人手不足が長く継続するのは、年収の低さと長時間労働を強いられることが主な理由です。
食品業界における2024年問題への対応
食品業界がさまざまな課題を抱えている現状が見えましたが、ここでは2024年問題に向けて対応可能なことを紹介していきます。
高速道路の利用
高速道路料金がかかるため、トラック輸送時は高速道路ではなく、下道を利用することが多いのが現状です。しかし、下道を通ると交通渋滞に巻き込まれることもあり、納品が遅れる事例も起こっています。
高速道路を積極的に利用することで、トラックドライバーの運転時間の短縮や納品が遅延する危険性も減るでしょう。これは、荷主に対しても良い影響を与えます。
輸送車の効率化
長距離トラック輸送をするとき、1人のドライバーが1つの輸送を引き受けることが主流です。例えば、関西から関東へのトラック輸送となった場合、ドライバーは3日間運行の車中泊を強いられます。
この走行距離の長さがトラックドライバーの労働時間を長くしていることにもつながり、効率化をはかるために中継輸送方式の導入が現在検討されています。
中継輸送では、1つの輸送を2人以上のドライバーで分担することになり、ドライバーの日帰りが可能です。
待ち時間の短縮
構内待ち時間が最も長い食品物流では、構内待ち時間を短縮することが必須です。現在、国土交通省が推進しているのが「バース予約管理システム」の導入です。
例えば、トラックに積んだ貨物を早く倉庫におろしたくても順番待ちのため、タイムスケジュールのめどが立ちません。バース予約管理システムを利用した場合、ドライバーは事前に倉庫への到着時間を予約することができ、待ち時間を解消できます。
倉庫事業者側にとっても、トラックの到着時間に合わせた人の配置が可能となり、庫内の作業効率化が図れます。
しかし、2023年経済産業省・国土交通省・農林水産省の調査によれば、このシステムを導入している荷主は約7%にとどまっているとの報告です。
参考:経済産業省・国土交通省・農林水産省「荷主事業者の物流情報の把握状況等に関する実態調査結果」
物流の2024年問題解決に向けた食品業界の取り組み
物流の2024年問題に対して、各業界はすでに動き始めているようです。ここでは、食品加工業界・スーパーマーケット業界・飲料業界がそれぞれ行っている取り組みについて紹介します。
食品加工業界
食品加工業界にとって物流は要となる工程です。しかし待ち時間が長く、トラックドライバーからの不満が多いのが食品加工業界とも言われています。
トラックドライバーからの敬遠を避けるため、同業者であるカゴメ株式会社・日清オイリオグループ株式会社・ハウス食品グループ本社株式会社・株式会社日清製粉ウェルナ・味の素株式会社の大手5社が手を組み、現在は共同配送が可能となりました。
結果的には必要なトラック数が減り、トラックの滞在時間も短くなったというメリットが報告されています。
スーパーマーケット業界
スーパーマーケット業界においても、前述の食品加工業界と似た動きが見られます。
2023年3月16日、スーパー大手4社のサミット株式会社・株式会社マルエツ・株式会社ヤオコー・株式会社ライフコーポレーションは記者会見を開き、2024年問題解決のために物流分野を協力領域とすると発表しました。
いくつか対応策がある中で、特にリードタイムの見直しはトラックドライバーの労働負担を軽減できると期待されています。リードタイムとは、商品発注から納品までにかかる時間のことを指します。
現在のリードタイムは1日と短くなっており、これを2日に変更してスケジュールに余裕を持たせて、準備する時間の確保と夜間配送を減らすことが可能です。
飲料業界
日本の物流の中で、トップレベルともいえる物量を持つのは飲料業界です。大手飲料企業であるサントリー食品インターナショナル株式会社・キリンビバレッジ株式会社・アサヒ飲料販売株式会社の3社間では、今のところ具体的な対策は出されていません。
しかし、互いの貨物を持ち寄り1つのトラックに乗せる共同配送の案に賛同する声も上がっています。飲料業界においても、今後の動きに期待が持てそうです。
まとめ
2024年問題をわかりやすく言えば、労働時間に規制がかかることで運送・物流会社に大きな影響を与えるさまざまな問題と説明できます。
食品業界が抱える物流問題は、倉庫での待ち時間の長さやトラックドライバーの人手不足など多岐にわたります。これらの問題を解決するために、高速道路の利用や新しいシステムの導入などが検討されているところです。
食品業界・スーパーマーケット業界・飲料業界に関わる日本の大手企業は、互いに仕事を共同することで2024年問題を解決していく構えです。