【AEO制度】通関の手続きを容易に 貿易関連事業者にメリットの大きい通関プログラム
輸出入業者や、その他貿易に関わる事業者にとって、税関での通関は決して容易なものではありません。場合によっては、国際的な情勢により、普段よりも時間がかかることや、セキュリティーが強化されることもあるでしょう。
そのような中、通関の手続きをより容易にするひとつの手段が「AEO制度」です。
「AEO制度」は「民間企業と税関の信頼関係(パートナーシップ)に基づくプログラム」として知られていて、企業にとっても税関にとってもメリットがあるものです。そこでこの記事では「AEO制度」についてくわしく説明します。
AEO制度とは
AEO制度とは、貿易を行う事業者に対して行われる「通関手続きにおける優遇措置制度」です。
AEOは「Authorized Economic Operator」の略で、日本語では「認定事業者」と呼ばれる業者を指します。「Economic」とあるように、経済活動、特に貿易に携わる業者に関わる制度です。
貿易を行う業者のうち、「貨物のセキュリティー管理」「法令遵守(コンプライアンス)」の体制が整備されていることが承認・認定された企業が、AEO(認定事業者)となります。この承認・認定を行うのは、税関長です。
承認・認定された企業は、貿易において税関手続きが緩和され、簡素化、迅速化される優遇があります。AEO制度は、こうした企業を認定する制度です。
AEO制度ができた経緯
そもそも貿易において、税関手続きはどの企業であっても平等に行われていました。現在もAEO制度以外では、原則として平等です。
AEO制度ができた直接の経緯としては、2001年9月11日に起きたアメリカでの「同時多発テロ事件」が挙げられます。
この事件により、国際的な流通においてセキュリティーが強化されてきましたが、セキュリティーチェックのため、流通は以前よりも遅延が起きがちになりました。こうした遅延を回避し、円滑・迅速な流通が求められるようになり、AEO制度が誕生しました。
日本では2006年から導入
こうした国際的にニーズに鑑み、2005年に、WCO(世界税関機構)がAEO制度の枠組み(基準の枠組み)を採択しました。
2022年現在、世界中の90以上の国や地域で、AEO制度は取り入れられています。
日本では2006年3月に輸出業者を対象に、はじめて採用されました。その後、輸入業者、倉庫業者、製造業者、通関業者、運送者にも認定の対象が広げられ、対象者ごとに認定内容が整備されてきました。
参考:税関「AEO制度」
https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/kaizen.htm
AEO制度のメリット
先ほども述べたとおり、事業者にとって制度を利用するメリットは、手続きの簡素化と迅速化です。
また、AEO制度を利用できる認定事業者になると、直接的・副次的にメリットがあります。具体的には、以下のとおりです。それぞれ、輸出業者・輸入業者ともにメリットとなります。
通関手続きの時間が短縮化される
AEO制度を利用すると、輸出/輸入ともに、保税地域に貨物が搬入/到着する前に申告を行うことができます。さらに輸出/輸入許可も、その段階で受け取ることができます。
AEO制度を利用しない通常の通関手続きでは、輸出は商品(貨物)を保税地域に搬入した後、輸入は商品(貨物)が保税地域に到着した後に申告を行う必要があるため、搬入までの時間と到着前の時間が、AEO制度を利用しない場合よりも余計に必要になってきます。
AEO制度ではこうした時間を省くことで、申請と許可を得た後の工程に、早く取り掛かれるメリットがあります。
関税支払いのタイミングを後倒しできる
通常なら、関税を支払ったのちに商品(貨物)を受け取れる流れですが、認定事業者の場合は納税前に商品(貨物)を受け取ることができ、その後に納税ができます。
この納税タイミングによっては、商品をいち早く国内で販売した後に納税することも可能になるため、資金繰りにおいてメリットがあります。
相互承認を利用しスピードアップできる
貿易には取引相手業者がありますが、相手の業者もAEO制度を利用していた場合、双方がAEO制度を利用することでさらに税関手続きがスピードアップします。
AEO制度が国際的に広く利用されている制度だからこそ、お互いのメリットがさらに大きくなります。
コンプライアンス(法令遵守)をアピールできる
AEO制度の認定を受けることは、認定事業者に課される基準をクリアしているということをアピールできるというメリットもあります。これらは、取引相手業者にとっての安心材料になります。
認定事業者に課される基準のうち重要なものは、コンプライアンス(法令遵守)です。
コンプライアンスは「法令遵守」と訳されますが、実際は「法規範・社内規範・倫理規範」の3つの範囲で、規範が求められます。法的なトラブルを避けられる可能性が高いだけでなく、社会的に責任ある姿勢を持ち規範となる企業であることを、アピールすることになります。
コンプライアンスをアピールできることは、取引先業者にとって自社の情報を集めやすい国内だけでなく、情報を得づらい国外の業者、また新規の取引先業者に対しても、大きな安心感を与える材料になります。
AEO制度のデメリット
AEO制度自体は、貿易を行う事業者にとってメリットしかないとも言えるでしょう。制度自体が業務をスムーズにし、認定事業者としてのステータスも得られるためです。
一方で、もしデメリットがあるとすれば、以下の点になります。
時間と経費がかかる
AEO制度自体にはデメリットはないものの、AEO制度認定事業者としての基準をクリアするための労力が必要になります。
主に、認定のための施策に費やす作業、貨物の管理に関する書類作成などが必要になります。業務内容に知識がある人材も必要なため、人材育成や人件費にコストがかかります。
罰則がある
AEO制度認定事業者としての承認・認定は、「貨物のセキュリティー管理」「法令遵守(コンプライアンス)」が適切に行われていることを確認することで、行われます。
そのため、この2点が守られていない、違反があるなどの場合は、罰則が科されます。通常の通関のルールにおいて優遇される一方で、もし違反があった場合にはリスクとなります。また、場合によっては認定が取り消されることもあります。
AEO(認定事業者)になるには
AEO制度の認定事業者になるためには、事業者が申請を行う必要があります。申請先は、事業を主に行っている地域(本社など)の管轄の税関です。
おおまかな手順としては、社内でAEO申請を検討した後、税関との面談を数回繰り返します。この面談の中で、申請に必要な書類や社内体制を整備していき、税関の監査を経て終了です。
業務手順を文書化することや新たな業務プロセスの手順を浸透させることなどに時間を要するため、初めての相談から承認を受けるまでに、1年以上は必要と考えておきましょう。
認定されるための2つのポイント
申請後になるべく早く認定されるためには、認定に必要なポイントを押さえておくことが重要です。
認定のためには、大きく分けて2点のポイントがあります。「貨物のセキュリティー管理」と「コンプライアンス(法令遵守)」の2点ですが、どちらも、詳細なポイントが設けられています。
貨物のセキュリティー管理の整備
貨物のセキュリティー管理には、「物理的セキュリティー」「人的セキュリティー」「情報セキュリティー」の3つの観点があります。
「物理的セキュリティー」は、貨物を扱う場所と、貨物を運ぶコンテナについての、物理的なセキュリティーです。貨物を扱う場所と貨物を運ぶコンテナや、貨物を扱う場所、利用するコンテナなどについて、適切な管理が求められます。
「人的セキュリティー」は、貿易業務に関わる社内外の人の不正を防ぐセキュリティーです。社内の不正を回避する体制や不正侵入者を防ぐ環境整備、業務委託業者の取り扱いについて、適切な管理が求められます。
「情報セキュリティー」は、コンピューター上で管理される顧客情報や出荷情報を適切に守るため、コンピューターネットワークへの不正アクセスを防ぐための施策です。
コンプライアンス(法令遵守)体制の構築
コンプライアンス(法令遵守)体制を構築する前に、満たしておくべき要件があります。
一定期間、法令違反履歴がないこと、暴力団員などと関与がないこと、業務を適正に遂行する能力を有すること、法令遵守規則を社内で規定していること、NACCSを利用した業務が行えること、の5つの事項です。
上記を満たした上で、コンプライアンス構築のためには、細かな事項が定められています。
適正に法令手続きを行うための手順書の作成、貨物管理・社内監査・教育研修などの体制の整備を整備すること、帳簿書類を適正に作成し保管することなどが、主な事項です。
まとめ
AEO制度を一言で言うなら、輸出入のたびに行われていた通常の通関(審査)を、あらかじめ事業者の業務態勢を認定してもらうことで、手続きを簡略化・迅速化するものです。
申請の準備には、時間や労力・経費もかかりますが、長い目で見れば、貿易を主な事業とする事業者には、メリットの大きいものです。
またAEO制度は、AEOとなる事業者にメリットがあるのはもちろん、取引先の事業者にもメリットになります。そのためAEOとなることで、さらにビジネスチャンスが広がると言えるでしょう。