【フードロス削減】海外の事情と日本の取り組みを比較

18世紀の産業革命以降、私たちは大量生産・大量消費を行い、豊かで便利な生活を送るようになり、経済を発展させてきました。

一方で、エネルギーを大量に消費することによって、大気汚染や地球温暖化等の環境問題を引き起こし、将来的に解決しなければならない問題を多く抱えています。今回は、それらの問題の1つである食品ロスについて説明します。

日本のフードロスの現状

農林水産省が公表した平成30年度の食品ロス推計値によると、本来食べられるにもかかわらず、廃棄された食品が600万トンありました。このうち食品関連事業者から発生したものが324万トン、家庭から発生したものが276万トンでした。

参考)農林水産省「食品ロス量(平成30年度推計値)の公表」
https://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/kankyoi/210427.html

日本の食品ロスについては、2016年度以降から減少傾向にあります。しかし日本の食品ロス発生量の推計には、市場に出ることが無く、農場で廃棄された作物などは含まれていないため、実際に廃棄されている食料は推計以上にあります。

そんな日本では、主に事業系食品ロス削減の取り組みが進められています。事業系食品ロスの削減については、企業としてのメリットがあります。

事業系食品ロスが発生した場合、コストをかけて作った商品が無駄になるだけでなく、それを処分するための処分費を企業が負担しなければなりません。

それらは売り上げや利益も減少させます。そのため日本では、企業が中心となって食品ロス削減に取り組んでいます。

海外の取り組み

海外における食品ロスの定義は日本と異なります。海外では、サプライチェーンにおける生産から小売の直前までに発生する損失を「ロス」とし、農場での生産・収穫後の取り扱いと貯蔵の段階で廃棄される作物を「廃棄」としています。

日本の食品ロスの定義を海外の定義に当てはめると「ロス」のみであり、「廃棄」は含まれていません。そのため、日本では食品ロスを海外より直視しにくいという問題があります。

そこで、次からは各国のフードロスの取り組みについて見ていきましょう。

オーストラリア

オーストラリアでの食品ロス削減の取り組みとして、シドニーに設立された「OzHarvest Market(オズハーベストマーケット)」という団体があります。

「OzHarvest Market」は、食糧問題の解決に取り組む慈善事業団体です。活動としては、消費期限が近づいた食品や生鮮品など、廃棄されそうな食品を扱い、商品には値札を付けずに、消費者が値段を決めて購入するシステムを扱います。

店舗はボランティアによって運営され、売上金は活動資金に活用しています。慈善事業として行うことで、食品ロス問題に関心を高めてもらうのに効果を上げています。

アメリカ

アメリカは人口が多いため、アメリカにおける食品ロス問題はとても深刻です。品質的には問題はないのに、見た目が規格外という理由で廃棄されてしまう野菜が、栽培される野菜の20%以上になるとも言われています。

そのような規格外の野菜や果物を安く農家から買い取り、スーパーなどで、販売価格の約30~50%引きという格安価格でオンライン販売し、自宅まで配送するサービスがあります。

このサービスは2015年から始まり、食品として販売した「規格外」の野菜や果物は7000万ポンド(約3トン)にもなります。

中国

アジアで世界最大の人口を誇るのが中国です。中国では食品ロスだけでなく、食料問題が深刻です。中国の人口は約14億人もいるため、1人が食べ残す量が少なかったとしても、全体の廃棄量は膨大になります。

中国の主要都市の飲食店で廃棄される食品が、年間1800万トンあると言われています。そんな中国において、食品ロスを減らすため、2021年に「反食品浪費法」が成立しました。

反食品浪費法では、飲食店側は食べ残した分の処分費用を客に請求できます。また飲食店側にも、客に適量を注文するように促さなければならないとされています。

違反した場合は、最大で1万元(約16万円)の罰金となります。飲食店以外にも、食堂を持つ政府機関や学校、出前アプリを運営するネット企業についても、食品の無駄が生じないような対策を求めています。

ドイツ

ドイツはEU加盟国の中で最大の人口を誇ります。そんなドイツでは年間1800万トンの食品が廃棄されています。

ドイツでは、「Food sharing(フードシェアリング)」という市民による団体がスーパーから廃棄食品を集めて、必要な人々に配る取り組みが行われています。

フランス

フランス政府は、2016年に世界でいち早く、スーパーマーケットの食品廃棄を禁止する法律を作りました。

この法律によって、廃棄される食品を慈善団体やフードバンクに提供することになり、食べることに苦労している人たちへ何百万食もの食事を無料で提供できるようになりました。

フランスでは、学校給食がビュッフェスタイルであるため、子どもたちは好きな物だけを選んで食べます。そのため、食事の約3割が食べ残しとなっています。

この食べ残しを減らすために、パリ市では学校に対して、学校の生徒たちによって手作りドレッシングを作り、給食に提供して、サラダなどをもっと美味しく食べられるようにしたり、果物を切り分けて食べやすくしたりするなど、子どもたちに給食を好きになってもらう努力をするように呼びかけを行っています。

また、パリ市では家庭における食品廃棄物のリサイクルを推奨しています。各家庭にリサイクルボックスを配布し、食品廃棄物の分別を行ってもらいます。分別された廃棄物は、肥料に変換されたり、バス用のバイオ燃料に変換されたりします。

日本の課題と今後

世界の食品ロスの取り組みは、行政が主導して行われています。一方、日本の場合は企業が収益確保を目的に行っているケースが多く見受けられます。

また海外に比べて家庭系の食品ロス削減が進んでいないことも問題です。それらの理由を含め、日本の食品廃棄量はアジアでワースト1位となっているのです。

そこで日本も、2019年に「食品ロスの削減の推進に関する法律(食品ロス削減推進法案)」が施行され、企業だけでなく消費者にも食品ロス削減について主体的に取り組むよう努めることが定められました。

しかしこの法律には罰則が無いため、しばらくは消費者ひとり一人が、自主的に食品ロス削減に取り組むことが課題となるでしょう。

まとめ

人類が抱える問題の1つである、フードロスについて紹介しました。食品ロス削減に対する取り組みについて、海外と比べると日本は遅れをとっているのが現状です。

もともと日本には、「もったいない」という言葉があるように、食べ物を大切にしてきた歴史があります。しかし、戦後の日本は、急激な経済発展を遂げ、豊かな国となり、大量生産大量消費の生活スタイルが定着してしまったようです。

また日本では行政による推進についても、海外のような厳しい規制はありません。日本の全ての企業、家庭が今一度「もったいない」という気持ちを持って、フードロス削減に取り組む必要があります。

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