七味は「NANAMI」!?日本の伝統調味料「七味唐辛子」が世界の料理で活躍中

近年、日本の伝統的な調味料である七味唐辛子が、グローバルな食の舞台で大きな注目を集めています。かつてはそばやうどん、鍋物といった和食に添えられるスパイスミックスという位置づけでしたが、今やその地位は、世界中の多様な料理に奥行きと複雑な風味を与える豊かなシーズニングへと進化を遂げています。

この記事では、七味のグローバル市場での価値転換、強みである調合の自由度、海外での活用事例、そして輸出における課題までを総合的に紹介します。

七味のグローバル市場での価値転換とは?

七味唐辛子は、唐辛子を主体に7種類のスパイスを組み合わせた調味料です。

辛味だけを求めるのであれば一味唐辛子が好まれますが、七味には山椒のピリッとしたしびれる感覚、陳皮の香り、麻の実のコク、ごまの香ばしさといった複数の層があり、料理の味に立体感を生み出します。

七味唐辛子の基本的な配合は「二辛五香(にしんごこう)」という考え方に基づいています。これは、辛さに特徴がある原材料を2種類、香りを重視した原材料を5種類組み合わせるという意味です。

たとえば、エスビー食品の「S&B七味唐からし」には、唐辛子・山椒・陳皮・青のり・ごま・麻の実・けしの実の7種類が使用されています。

※参考:エスビー食品「七味唐辛子」

ここ数年、世界中で健康志向が高まり、和食が「ヘルシーな料理」として広がり続けています。これに伴い、和食によく使われるスパイスミックスである七味唐辛子も、多くの国々で使われるようになりました。

グローバル市場で七味を展開するにあたり、海外では「1(イチ)」と「7(シチ)」の発音の区別が難しいことから、一味唐辛子と七味唐辛子の混同を避けるため、輸出向け製品の一部は英語で「NANAMI TOGARASHI」と表記されています。

この「NANAMI」という表記は、発音のしやすさや親しみやすさなど、七味の国際的な認知度を高めるためのブランド戦略の一つともいえるでしょう。

「調合」の自由度の高さが七味の強み

七味唐辛子の最大の強みは、その「調合」の自由度の高さ、すなわちパーソナライズ性の高さにあります。

多様な風味や辛味を持つ原材料を組み合わせ、料理や個人の好みに合わせて無限ともいえるバリエーションを生み出すことができるのが特徴です。

たとえば、「日本三大七味」の一つとして知られる八幡屋礒五郎(長野市)は、七味自体の認知度がまだ低い海外市場にオーダーメイド型の七味を売り込み、各地の料理に合う調味料としての需要を掘り起こそうとしています。

※参考:八幡屋礒五郎「法人のお客様へ」

原材料や割合の変更は、味の調整のためだけでなく、輸出先の国の法規制に対応する目的でも行われています。食品に関する法規制(regulation)は国によって異なり、一部の国では、麻の実やけしの実が規制の対象となっているためです。

エスビー食品は、全世界すべての国に輸出できるように、海外向けの「S&B七味唐からし」の中身の仕様を変更しています。具体的には、麻の実とけしの実を外し、その代わりに白ごまとしょうがを加えました。

※参考:エスビー食品「海外向けに販売している「七味唐からし」について」

このように、国や地域の食文化、あるいは目的に対応できる調合の柔軟性の高さこそが、七味をグローバル市場で競争力のあるスパイスとして押し上げる大きな要因となっています。

和食以外にも広がる七味の活用

七味唐辛子は、現在では和食に付随する調味料という枠を超えつつあります。特に米国をはじめとする北米のレストランでは、食のバリエーションを豊かにする食材としての地位を確立しつつあります。

実際に、日本の食材を北米向けに販売するある会社は、同社経由で七味唐辛子を購入するレストランが増えているといいます。七味の辛味と香りの複雑さが既存の料理に新たな「うま味」や「奥行き」を加えることに、現地のシェフたちが注目しているのです。

ニューヨークのあるレストランでは、七味唐辛子をブレンドしたフライドチキンを、サンフランシスコのレストランでは温州ミカンや紅芯大根などを使ったサラダに味噌ドレッシングを合わせ、トッピングに七味唐辛子をふりかけて提供しています。

特にトッピングとしての活用は、料理ができあがってから「後がけ」する習慣の少ない海外の人々には新しく、食べる人自らが味を仕上げる体験も楽しんでいます。

さらに、カクテルへの応用も見られます。ブルックリンにあるバーは、トマトジュースではなくニンジンジュースをベースにした、七味唐辛子入りのブラッディマリーを考案しました。

既存のスパイスミックスと七味を組み合わせる例も出ています。スパイス専門店から七味唐辛子を仕入れているマンハッタンのシェフは、パプリカやガーリックパウダーなどを加えた七味を、揚げたナスにまぶして提供しています。

また、メキシコでも七味の活用が進んでおり、サンルーカス岬にあるレストランでは、みりん風味のノパル(食用サボテン)料理に七味が使用されています。

このレストランのシェフが「唐辛子はとても好きな食材である」とコメントしていることからもわかるように、七味唐辛子が持つ刺激と香りが、世界各地の料理の可能性を広げています。

七味のグローバル展開における課題とは?

世界の料理に取り入れられつつある一方で、七味の海外展開にはいくつかの課題が存在します。考えられる代表的なものをいくつか挙げていきましょう。

法規制への対応

まず、国によってスパイスに関する規制が異なることです。前述したように、麻の実やけしの実は、国によって輸入が制限されている場合があります。

七味は原材料の構成を変えることができるため、日本国内向けの商品とは異なる多彩な調合が可能というメリットがある反面、国や地域によっては七味唐辛子本来の味わいを楽しめない場合も考えられます。

伝統の味を守りつつ、規制に合わせて原材料を調整することが、技術的にもブランド戦略的にも求められます。

品質管理と安定供給

次に、輸出においてメーカーが取り組むべきは、風味を損なわない安定的な供給です。

七味は香りが大切な調味料であり、原材料の鮮度が味の決め手です。そこで、輸送中の温度や湿度管理、長期間保存されても香りが飛ばないようにする包装技術など、メーカーは細やかな工夫を重ねる必要があります。

ブランド戦略と市場開拓

さらに、ブランドとしての訴求も課題です。たとえば、七味自体は知られていても、どのようなメーカーがどのようにブランド展開しているのかを知っている人は多くないでしょう。

また「柚子七味」や「山椒七味」のような、ほかの伝統食材と組み合わせた商品もあることをアピールしていくことも、七味の可能性を伝えることにつながります。

七味を、「和食限定のトッピング」から「世界の料理に合うオーダーメイド型の調味料」という認知に変えていくためには、さらなる積極的な市場開拓と、その多用途性・付加価値を伝える努力が必要でしょう。

まとめ

七味唐辛子は、日本の伝統調味料として長年愛されてきた一方、海外ではその多層的な風味と調合の自由度が評価され、グローバル市場での地位を確立しつつあります。

和食にとどまらず、各国の料理で活躍する万能スパイスへと進化し、現地の食文化に寄り添う形で独自の調合やレシピが広がっているのはうれしい事実です。規制や供給に関する課題はあるものの、日本の各ブランドは技術と工夫で対応し、世界に向けた七味の魅力発信を進めている最中だといえるでしょう。

七味はただ辛いだけのスパイスではなく、風味が重なり合う、日本が誇る伝統の味です。今後も「NANAMI」として、世界中の食卓で新しい価値を生み出していくことでしょう。

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