【食育】日本、アメリカ、イギリス、韓国、シンガポール、フランスの6カ国から比べる食育事情

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最近「食育」という言葉をよく耳にするようになりました。子供の頃の食生活が、大人になってからの食生活の基盤となるため、食育の重要性が今見直されています。

興味深いことに、それぞれの国によって食育事情が異なっているようです。そこで今回は「日本と海外の食育事情」についてご紹介していきます。

食育とは

食育とは、食べることに関する知識を得た上で、食べ物を選ぶ力を養うことにより、健康的な食生活を送る人を育てる教育のことを指します。そして、現在では子供を対象にした未来につながる食育が盛んに行われるようになりました。

その理由は、子供の頃の食生活が、大人になってからの食生活の基盤となることが指摘されているためです。また、幼少期の不適切な食生活が、将来的に糖尿病や肥満などの生活習慣病を引き起こすこともあり、学校や家庭での食育活動がすすめられています。

では、日本と他の国での食育事情を詳しく見ていきましょう。今回ご紹介する国は、日本、アメリカ、イギリス、韓国、シンガポール、フランスの6カ国です。

日本の食育

日本では、2005年に食育基本法が制定されて以来、本格的に日本政府による食育の推進がはじまりました。食育基本法の前文には、子供たちが未来に向けて、健全な心と体を養うことの重要性が述べられています。

食育基本法の制定により、食育の推進活動には国の予算が使われます。農林水産省は毎年、地域の食育推進に交付金を出しています。そして、それぞれの自治体においても食育政策を計画・実施することが求められています。

例えば、市民の食生活改善のために推進員を育成し、食育フェアの開催や生活習慣病予防のメニュー作成などが行われています。このように日本の食育には、国と自治体が大きく関与しています。

日本の子供たちにとって主な食育の学び場となっているのは、学校給食です。子供たちはバランスのとれた給食を食べながら、季節ごとの行事食にも出会えます。子供たちは給食を通じて、日本の食文化に関する知識や食に対する感謝の気持ち、食事のマナーを習得します。

最近では、親子向けの調理教室や農業体験を行う自治体もでてきており、食育の学び場は家庭まで広がりつつあります。

アメリカの食育

野菜や果物の摂取量が多いほど生活習慣病を予防できる、という研究結果の発表を受け、アメリカでは1991年に「5 A DAY」がはじまりました。

「5 A DAY」とは、1日に少なくとも5皿以上の野菜と果物を食べようという運動です。この食育活動の成果もあり、1991年以降、アメリカの野菜摂取量は上昇が続き、1998年には日本の野菜摂取量を上回りました。

この他にもアメリカには、「Edible Schoolyard」と呼ばれる食育活動があります。これは子供たちに野菜を栽培してもらい、時期が来たら収穫し、それを調理してみんなで食べる、という一連の活動のことです。

「Edible Schoolyard」は、子供たちに食べ物を作ることの苦労や育て方を学べる場所を提供しています。この活動を通じて、子供たちが食に携わる人への感謝を育むことが期待できるのです。

イギリスの食育

イギリスにおける深刻な健康問題は、子供の肥満です。4歳から5歳の子どもの10人に1人が肥満、11歳から15歳においては10人に3人と報告されています。

そして、野菜の摂取量が少ないほど肥満のリスクが高まることがわかっており、イギリスの子供たちの約80%が野菜不足であることが懸念されています。

これを受けて現在イギリスでは、子供向けに「VEGPOWER」キャンペーンが行われています。「EAT THEM TO DEFEAT THEM」をキャッチフレーズに、テレビCMやイベントを通じて、子供たちにもっと野菜を食べるようにすすめています。

またイギリス政府は、2013年に学校のカリキュラムに食育を盛り込むことを記した「The School Food Plan」を発表しました。この計画には、教師やシェフ、栄養士、多くのボランティア団体が関わっており、国をあげての食育推進活動に国民の期待が高まっています。

韓国の食育

韓国では、人間の身体と大地は一体であるという考えをもとにした食生活教育が行われています。ここでいう食生活とは、調理や食事マナー、食品の選択など、食べ物の摂取に関わるすべての活動を指します。

韓国の小学校では6年間を通して、一貫した食生活教育が受けられるようにカリキュラム化されています。例えば、小学校1年次には正月に食べる韓国の伝統餅を作り、3年次には韓国の伝統的なお菓子を作るなど、子供たちは調理する力を養いながらも、韓国の伝統料理を知ることができます。

また、2009年に韓国政府は「食生活教育支援法」を制定しました。この法律には、国産食品や地場産食品の価値を見直す運動も含まれており、韓国産の農産物を積極的に利用することがすすめられています。

シンガポールの食育

シンガポールも日本と同様、学校給食を提供している国です。日本と異なる点は、多民族国家であるシンガポールでは、給食の時間は異文化を体験できる場となっていることです。

例えば、幼稚園の給食では、豚肉を使わない宗教に配慮した食事が提供されています。味付けは、塩分を控えた化学調味料に頼らない自然な味に仕上げてあります。また、カラフルな食器に盛り付けて、子供たちの食欲をそそるように工夫しています。

おやつに関しては、甘いものではなく、子どもの発育を助けるおかゆや野菜が入ったまんじゅう、伝統料理などローカルフードに触れる機会もあります。このようにシンガポールでは、幼稚園の時から食育に力を注いでいます。

この他にも、シンガポール政府は、学校の食堂に対して「Healthy Meals in School Programme」を掲げています。このプログラムによって学校の食堂は、学生の成長に必要な健康的な食事を提供することが求められています。具体的には、「玄米・全粒粉パン・肉や魚・野菜と果物」の4つの食品グループを食事に含む、などです。

フランスの食育

フランスは、食育に最も力を入れている国といえます。フランス政府は、2001年に「Le Programme Nationale Nutrition Sante(栄養健康国家計画)」を発表し、この計画に食育の方針を盛り込みました。興味深いことに、フランスの食育には「味覚の教育」が含まれています。

「味覚の教育」の目的は、五感を使って食べ物と向き合い「自分で感じて考える力・判断する力・感じたことを人に伝える力」の3つのスキルを習得することです。結果的に、これらは社会的に必要とされるスキルとなります。

毎年10月の第3週は「味覚の1週間」と呼ばれ、この期間中、フランスの子供たちはさまざまな食体験ができます。一流シェフによる味覚の授業や料理コンテスト、討論会など、3000人を超えるシェフたちがこのイベントを支えています。

30年前から開催されている「味覚の1週間」は、国民の約80%が認知している歴史ある食育活動です。

まとめ

食育活動は日本だけではなく、さまざまな国で行われていることがわかりました。

食育に関する法律を制定している国が多く、政府主体で食育が推進されているのが現状のようです。特に、どの国においても子供たちへの食育を重要視しており、その形は国によって異なっていました。

日本とシンガポールは「学校給食」、アメリカとイギリスは「野菜摂取量の増加」、韓国は「地産地消」、フランスは「味覚教育」のように、その国の食文化と直面する健康問題によって、食育の方針が決まっているようです。

現在すすめられている食育活動によって、将来的に良い効果を得られることが期待されています。

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