コロナウイルスによる貿易の変化と今後の見通し|食品業界の行方
2019年12月に広がりを見せはじめたコロナウイルスは、2020年には世界中で猛威をふるい、結果的に貿易の状況にまで影響を及ぼしました。
輸入と輸出で成り立つ貿易は、私たちの暮らしに必須であることは間違いありません。そして、その貿易の基盤は国民の消費意欲とも考えられ、コロナ禍の状況が貿易に大きな変化をもたらしたことは事実です。
今回は、「コロナ禍における日本の貿易の変化」「今後の貿易の見通し」そして「日本の食品輸出の動向」について解説していきます。
コロナウイルスが与えた貿易への影響
コロナウイルス感染症の発生状況が世界中で深刻となったのは、2020年2月下旬のことです。ここでは、コロナウイルスが日本の貿易に与えた影響について解説します。
輸出額の変化
財務省の貿易統計によれば、2020年3月時点で6.4兆円に達していた輸出額が同年5月には4.1兆円まで下落し、たった2カ月間で約2.3兆円の差を生じています。
輸出額が大幅に下落した理由は、世界各国で感染拡大を抑制する措置としてロックダウンや人の移動制限が行われたためです。
この大規模な人流抑制により、主要な輸出先であった国々の消費意欲が減り、それにともない輸出額が大きく減退する結果となりました。
日本貿易振興機構(JETRO)によれば、コロナ禍に起きたこの輸出額の低迷は、需要と供給の両方からの影響を受けたと分析しています。
需要面からの見解は、部材の最終輸出先である日本や欧米を含む主要国からの受注が減ったことが要因とされています。
供給面から見ると、輸入元先である各国において部材の生産停止が施行されたこと、また海運や航空運送などの国際輸送が止められたことが要因であるとの分析です。
参考:経済産業省|新型コロナウイルス感染症による輸出の変化と日本経済へのインパクト
参考:新型コロナが貿易に与えた影響とは(ASEAN)
運賃市況の下落
貿易において主要な輸送手段の1つである船の種類には、車を輸送する自動車船・石油を運ぶタンカー・衣類や日用品を運ぶコンテナ船など、それぞれ専用化されています。
特に、コンテナ船は私たちの暮らしに直結する日用品や衣類などの物資を輸送しています。しかし、コロナ禍で人の動きが抑制されて個人消費が減ると、コンテナ船の荷動きは減速しました。
この減速は、上海がロックダウン下にあった2022年8月末に顕著に現れ、運賃市況が急落しました。そのため、この頃多くのコンテナ船会社がコンテナ船の欠便を強いられています。
上海海上コンテナ運賃指標(SCFI)を参考にすると、2022年12月時点で主要な航路である北欧州および北米海岸において、運賃市況の上昇の兆しが見えはじめたことがわかります。
しかし、物資の需要と供給のバランスを保つにはまだまだ時間がかかるとの見方もあり、コンテナ運賃の下落はしばらく続くとの予想です。
参考:日本郵船株式会社|コンテナ輸送業界の現状と見通しについて
貿易における今後の見通し
ここでは、貿易における今後の見通しについて、貿易収支および輸送形態に分けて解説していきます。
貿易収支
日本経済の現状は、コロナ禍から徐々に元に戻りつつある道半ばの状態にあります。しかしながら、ロシアによるウクライナ侵攻や円安・ドル高の影響で景気が減速している側面も持ち合わせています。
これらの状況を考慮した上での貿易収支は、輸出額は横ばい状態、輸入額は高い水準を維持することが示唆されています。
具体的に、2023年度の輸出額は102兆円6320億円と予測されており、これは2022年度の輸出額102兆6190億円と比較してもあまり差がありません。
輸出額の増加が見込まれない理由は、回復傾向にある世界経済のおかげで海外からの需要が高まる一方、エネルギーの高騰や円安の影響が2023年度の輸出額に反映されることが挙げられます。
輸入額においては、2021年度および2022年度の2年連続で34.7%の増加、2023年度で2022年度から5.6%の減少が見られました。減少するものの、高水準を維持すると予測されています。
参考:一般社団法人日本貿易会|2023年度わが国貿易収支、経常収支の見通し
輸送形態
2023年1月、株式会社NX総合研究所が国際貨物輸送について今後の見通しを発表しました。
国際航空を例に挙げれば、2023年度の輸入貿易数量は0.5%プラスと小さな増加が見込まれる一方、輸出貿易数量においては2.1%のプラス転換があることが報告されています。
主要な国際線別に見てみると、北米線では自動車市場が回復したことを受けて自動車と自動車部品の輸出がプラス転換、アジア線においても中国のゼロコロナ政策の緩和により電子部品や半導体制動装置の輸出がプラスに推移しています。
しかし、欧州線についてはウクライナ情勢悪化の長期化により、今後もマイナスが続くとの見通しです。
コロナウイルスの感染拡大が続いた2021年は、海運から航空輸送へ大きくシフトした1年でもありました。この原因はコンテナと船腹スペースの不足が生じたためで、貨物用ではない旅客機を利用することでこの不足分を補っていた時期もありました。
2022年4月に入ると海運の混乱も落ち着きを見せはじめ、航空から海運へ再びシフトしているのが今の状況です。今後も海運の本格化は続くと考えられます。
参考:株式会社N X総合研究所|2022・2023年度の経済と貨物輸送の見通し
今後の食品輸出
最後に、日本の食品輸出における今後の動向について解説します。農林水産省では政府が定めた輸出目標金額2兆円を目指し、日本経済を活性化するために食品の輸出拡大を図っています。
輸出対象国
2022年7月、日本政策金融公庫は食品産業に関する輸出の取組み状況について、全国の食品企業に対し調査を行いました。
「輸出の取組みをすでに行なっている」と答えた企業のうち、もっとも割合が高かった輸出対象国は55.5%の台湾および香港、次に高かったのは51.5%を占めるアメリカでした。
今後新たに開拓したい国としては、欧州やアメリカが上位を占めています。特に、野菜の漬物・水産食品・めん類・調味料・緑茶・酒類などの食品に対し、海外向け製品の製造や海外店舗への展開に取組みたいとの回答がありました。
この他にも、「インドネシアやタイなどの東南アジア諸国への輸出拡大を視野に入れている」と回答した食品産業も多く見られました。
参考:株式会社日本政策金融公庫|食品輸出 米国、E Uへの拡大を目指す動き
加工食品の輸出
日本の加工食品の輸出額は、2010年から2019年の間で約1.9倍になる程の順調な伸び行きです。2017年の時点で、海外へ進出した食品製造業の現地法人数は521社に及び、その総売上高は5兆8000億円にまで達しています。
食品加工品の輸出額はコロナウイルスの影響を受けて2020年の年初には大きく落ち込んだものの、主要な輸出先である東南アジアを含むアジア地域で回復が見えはじめ、1〜8月の対前年比は落ち込みの減少幅が小さくなっています。
東南アジアや中国には日本食レストランの数が多いこと、家庭において日本の調味料や加工食品を増える機会が増えていることが背景にあり、日本政府は加工食品の輸出戦略に力を入れているところです。
参考:一般社団法人食品需給研究センター|加工食品の輸出需要動向
トレンド
現在アメリカでは、富裕層から多大な支持を得ているグルテンフリー食品の市場規模が拡大しています。
これを受けて日本では、独自で開発したグルテンフリー食品をアメリカへ輸出する動きがすでに始まっています。例を挙げれば、東亜食品はグルテンフリー乾麺のアメリカへの輸出を2018年に開始しました。
そして、欧州のトレンドとして注目が集まっている市場はオーガニック食品です。
ただ、日本が欧州向けにオーガニック食品を輸出する際に課題となっているのが、日本と欧州でのオーガニック認定方法の違いです。欧州の方が対象となる工程が広いため、日本にとって大きな壁となっています。
しかし決して無理なことではなく、農林水産省やジェトロの協力を得て、オーガニック抹茶やしょうゆなどの欧州への輸出はすでに行われています。
参考:一般社団法人食品需給研究センター|加工食品の輸出需要動向
まとめ
今回は、コロナの影響により引き起こされた貿易の変化や今後の見通しについて詳しく解説しました。
コロナ禍において物資の需要と供給のバランスが崩れた結果、輸出額や運賃市況の下落が起こりました。今後は人の移動制限が緩和されたことにより、徐々に回復に向かうようです。
また、日本の食品輸出については政府も力を注いでいるところであり、特に加工食品は東南アジアを中心に需要が増えています。今後は欧米の食品トレンドを見据えることで、コロナ後の日本経済の発展にも期待が持てそうです。