中東で日本のスイーツブーム シャトレーゼの進出で定番の和風スイーツ広まる
近年、中東、特にアラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアをはじめとした湾岸諸国において、日本のスイーツが注目されています。いったい、どのようなスイーツが人気を集めているのでしょうか。
中東のスイーツ事情
まずは、中東のスイーツ事情について見てみましょう。まったく雨が降らない暑い夏と、比較的気温が低く時折雨が降ることがある冬、年間を通して降水は少なく、乾燥した気候がこの地域の平均的な気候と言えます。ある程度明確な四季を持つ日本に暮らしていると想像が難しいですが、特に夏季の気候は厳しいと感じることができます。
そのような風土の中で、さまざまなスイーツが中東では発達してきました。「ピスタチオ」や「カシューナッツ」など、この地域の特産品を使用したアラビックスイーツをはじめ、「バクラヴァ」など美食の国トルコのスイーツもよく見られます。
これらのスイーツの共通点として、かなり強い甘さを持つということが挙げられます。砂糖の入っていない紅茶などの飲み物と一緒にいただくことで、その美味しさがより引き立つようになっていると言えるのかも知れません。
日本にも、ドバイ発祥の「ヴィヴェル」というスイーツショップが店舗を展開しており、オンラインショップもあります。アラビックスイーツは、手軽に味わうことができるようになっていますので、興味のある人はトライしてみましょう。
人気の日本スイーツとは
このように、伝統的なスイーツも多い中東ですが、どのような日本のスイーツが人気なのでしょうか。その先駆けとも言えそうなのが、ドバイにある日本スタイルのベーカリーである「YAMANOTE」です。
厳密にはスイーツのお店とは言い難いのですが、それでも「YAMANOTE」の成功を見て、中東湾岸諸国一帯にこういった日本スタイルのお店が林立しました。その後、パンからスイーツへと興味の対象は移行していきます。以下、具体的な例を紹介します。
スフレチーズケーキ
チーズケーキと言われたときに、レアチーズケーキあるいはベイクドチーズケーキを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。実は、中東で人気があるのは、しゅわっとした食感のスフレチーズケーキで、有名なのは大阪の「りくろーおじさんの店」と、福岡の「てつおじさんの店」のものです。
後者は「Uncle Tetsu」というブランドで海外進出を行っており、サウジアラビアやUAEにも出店しています。中東では、地元資本の「Uncle Osaka」が10を超える店舗を展開していますし、現地の日本式パン店が商品ラインナップにスフレチーズケーキを加える、といった動きも起きています。
スフレタイプのチーズケーキがなかった中東で、なぜこういったブームが起きたのでしょうか。そのきっかけは、この地域の人が日本旅行で味わったスフレチーズケーキをお土産として持ち込んだこととされています。おいしいという評判は徐々に広がり、中東に暮らす人たちの間にもその評判は定着したと言えるのかも知れません。
もち入りアイスクリーム
もちは「mochi」として海外で人気を集めています。しかし日本で想像する餅とは違い、薄い皮に包まれたアイスクリームが中東をはじめとする海外で注目されています。
「雪見だいふく」をイメージするとわかりやすいのですが、やわらかいながらも弾力のあるもちでくるまれたアイスクリームは、中東という厳しい暑さの夏を持つ地域には、十分に受け入れられる素地があったのでしょう。
驚くべきはその提供価格です。日本で大人気の「ミニ雪見だいふく」は湾岸諸国でも輸入している国がありますが、小売価格は邦貨換算で1,000円を超えます。日本から空輸が必要とはいえ、日頃から同製品に親しんでいる日本在住者から見ると驚くべき金額と言えるでしょう。
価格水準は、現地の企業が展開するもち入りアイスクリームも同様です。UAEなどで店舗を展開している「M’OISHI」では、もちアイスクリームを1個約700円、3個セットでは約1,800円といった価格に設定しています。クウェート発祥の「Kanemochi」も、6個入りのもちアイスクリームは2,000円ほどです。M’OISHIに比較すればやや安価ではありますが、日本国内の感覚からはやや離れていると言えるのかも知れません。
もち入りアイスクリームの種類も、日本でも定番と言えそうな「バニラ」や「抹茶」をはじめ、中東で好まれる「デーツ」や「ザクロ」、あるいは「ピスタチオ」などのナッツ類を使用しているものがあります。日本発祥のもち入りアイスクリームは、この地で新しいステージに突入したと考えることができそうです。
シャトレーゼの進出
出典:https://www2.chateraise.co.jp/
日本でもおなじみの「シャトレーゼ」も、中東地域でビジネスを展開しています。これはUAEのINDEX Holding社がフランチャイズ展開しているもので、同国のドバイとシャルージャに出店しています。
現地の店舗では、日本で扱っているスイーツのほか、一部の商品には中東諸国で好まれるデーツを使ったメニューが用意されています。人気があるのは「もち」や「どら焼き」といった定番の和風スイーツはもちろん、日本スイーツの定番とも言えそうな「スフレチーズケーキ」などがあります。シャトレーゼのプレミアムブランドである「Yatsudoki」もドバイに店舗を構えており、こちらの評判も上々です。
さらなる展開として、シャトレーゼに対しサウジアラビアへの進出を求める声もあります。今後に注目したいところです。
リヤドのオリジナル日本スイーツ店
サウジアラビアの首都リヤドでは、オリジナルブランドの日本スイーツ店「Amai Japanese Bakery」が注目されています。ここはYAMANOTEの流れをくむ日本スタイルのパン店がベースですが、スイーツにも力を入れています。
店内には菓子パン類だけでなく、「タルト」や「シュークリーム」といった各種のスイーツが並びます。日本風をうたっていることもあり、全般的に現地のスイーツと比較して甘さは控えめです。
中東の人はどんなスイーツが好き?
ところで、中東の人たちはどのようなスイーツを好むのでしょうか。その答えは、この地域で伝統的に食べられているスイーツを見ることで得られます。たとえば、トルコの伝統スイーツで中東諸国でも高い人気がある「バクラヴァ」は、その濃厚な甘さが特徴です。
ほかにも、シロップで甘く味付けをしたお菓子は数多くあります。材料としてデーツやナッツ類が使われたスイーツが多いことは、この地域でどのようなお菓子が好まれてきたかを探る上で大きなヒントになるでしょう。
中東には「預言者ムハンマドは蜂蜜と菓子を好まれた」という伝承があります。古い時代から、この地域の人たちが甘味が強く、その上で素材の特性をよく活かしたお菓子を好んでいたことを感じさせます。
まとめ
中東で注目されている日本発のスイーツについて、スフレタイプのチーズケーキやもちアイスクリームのような、過去に中東にはあまりなかった食感の商品が人気を集めています。こだわりのスイーツ全般を扱うシャトレーゼの進出からも、さらなるビジネスチャンス拡大の可能性を見出すこともできそうです。
とはいえ、実際の中東進出には規制や手続きなどの壁もあります。現地でのパートナー確保の難しさも加わりますから、現状では事業化に至るケースは決して多くありません。日本スイーツブームも、日本側が主導したものとは言えないことには注意が必要です。シャトレーゼに対するINDEX Holdingのように、現地事情に精通したパートナー確保がひとつのキーポイントになるでしょう。