和製スピリッツ「SHOCHU」の挑戦!バーカルチャーとカクテルで切り拓く海外展開
日本を代表する蒸留酒である本格焼酎が、いま海外市場で新たな可能性を広げています。
これまで焼酎の海外展開は、「日本食レストランで日本食とともに楽しむ日本のお酒」という位置づけが中心でした。しかし近年は、その枠を超えカクテルベースとしてバーで活用されるなど、ローカルな飲酒文化に溶け込む新たなアプローチが進んでいます。
本記事では、本格焼酎の海外展開の現状と、世界に向け「SHOCHU」という独立した酒類カテゴリーを確立するためのブランディング戦略について紹介します。
欧米・アジアで高まる本格焼酎の存在感
焼酎の輸出は近年着実に拡大しており、日本産酒類の海外展開を支える重要なカテゴリーの一つとなっています。
国税庁によると、日本産酒類の輸出額は2025年に1,495億円を超え、過去最高額を記録しました。そのうち、焼酎の輸出額は19億6,000万円、対前年比13.9%のプラスとなっており、着実に増加傾向にあります。
また日本酒造組合中央会によると、2025年の乙類焼酎(本格焼酎および泡盛)の輸出額が前年比16%増を記録するなど、日本の世界市場における主要輸出酒類として期待が高まっています。主要輸出国は中国、韓国、シンガポール、ベトナムなどアジア地域ですが、アメリカやカナダなどにも広がっています。
※参考:国税庁「最近の日本産酒類の輸出動向について」
日本酒造組合中央会「2025年度単式蒸留焼酎(本格焼酎・泡盛)輸出実績」
欧米市場:ニューヨーク州の法律改正が追い風に
焼酎の輸出先として注目されているのが、アメリカ市場です。
近年、ニューヨーク州では法律改正が行われ、アルコール度数24%以下の焼酎については、蒸留酒販売向けライセンスではなく、ビール・ワインライセンスを持つ店舗でも販売できるようになりました。
これにより、これまで焼酎を取り扱うことができなかったレストランやバーでも焼酎を導入しやすくなり、市場拡大への期待が高まっています。
アメリカではウイスキーやクラフトジンに続く新たなスピリッツへの関心が高まっており、原料によって異なる香味を持つ焼酎は、個性豊かな酒類として注目を集めています。
アジア市場:シンガポールや台湾で認知度向上へ
アジア市場でも焼酎への関心は高まりつつあります。
シンガポールや台湾では、試飲イベントやセミナーなどのプロモーション活動が積極的に行われています。東南アジアでは日本食市場の拡大に伴い、日本産酒類への関心も高まっており、焼酎を紹介する機会が増えています。
日本酒やウイスキーと比べると認知度はまだ限定的ですが、その分成長の可能性は大きく、現地のバイヤーやディストリビューター(卸売業者)からも期待が寄せられています。
欧米とアジアの双方で市場開拓が進むなか、焼酎は「SHOCHU」という独立したカテゴリーとして世界市場への浸透を図っています。
現地カルチャーへの浸透を狙ったバー展開
焼酎の海外展開において重要視されているのが、現地のバーカルチャーとの融合です。
これまで海外では、「焼酎は日本食レストランで日本料理とともに飲むお酒」というイメージが強くありました。しかし、その枠だけでは市場拡大に限界があります。そこで近年は、カクテルベースとしてバー市場への提案が進められています。
各メーカーのバー市場への取り組み
たとえば、三和酒類が開発した「iichiko彩天」は、アルコール度数を43%に設定し、カクテルにしても存在感が失われない設計を実現しました。開発段階ではアメリカのトップバーテンダーの意見を取り入れ、バーでの使いやすさを追求しています。
また、濵田酒造の「DAIYAME 40」も、ライチを思わせる香りを活かしながら40%という世界標準のアルコール度数を実現し、海外のバーやレストラン向けに展開しています。
さらに近年では三和酒類、薩摩酒造、高橋酒造の3社が世界的バーテンダーの後閑信吾氏と連携し、「The SG Shochu」シリーズを展開しています。
シリーズには、三和酒類による麦焼酎「MUGI」、薩摩酒造による芋焼酎「IMO」、高橋酒造による米焼酎「KOME」の3種類がラインアップ。それぞれの原料の個性を活かしながらバーでの使用を前提に開発され、注目を集めています。
※参考:三和酒類「iichiko彩天」
濵田酒造「DAIYAME 40」
【The SG Shochu】公式サイト
ミクソロジーが切り拓くSHOCHUの新たな可能性
こうした商品開発の背景には、世界のバー業界で広がる「ミクソロジー」という考え方があります。
ミクソロジーとは、ハーブやスパイス、フルーツ、発酵素材などを組み合わせ、それぞれの素材が持つ個性を引き出しながら新たな味わいを創り出すカクテル手法です。
日本では焼酎を水割りやお湯割りで楽しむことが一般的で、素材本来の魅力を引き出す「割り算の文化」が根付いています。一方、欧米のバー文化では複数の素材を組み合わせ、新たな価値を生み出す「掛け算の文化」が主流です。
焼酎は、芋・麦・米といった原料ごとの個性的な香りに加え、麹由来のうま味を持つことから、ミクソロジーとの相性が良いとされています。
実際に海外のバーテンダーたちは、焼酎をベースにしたエスプレッソマティーニやネグローニなどの創作カクテルを開発しています。焼酎は「日本食と合わせる日本の酒」という枠を超え、創造性を刺激するスピリッツとして、新たな可能性を切り拓いているのです。
官民一体となったネットワーク構築とバイヤー誘致
海外市場での販路を拡大するためには、現地のバイヤーや専門家を巻き込んだ官民一体の取り組みが欠かせません。
たとえばジェトロ(日本貿易振興機構)は、海外の有力な酒類専門家やメディア、バイヤーを日本国内の蔵元に招致するツアーを精力的に実施しています。
2024年には、熊本、鹿児島、宮崎の各県でバイヤー商談会が開催され、現地のプロフェッショナルによる職人技や製法を学ぶ機会が設けられました。
実際に蔵元を訪れたバーテンダーからは、「作り手の情熱やストーリーを直接聞くことで、お客様に自信を持って話せるようになった」という声が上がっており、物理的な輸出だけでなく「情報の輸出」も重要視されるようになりつつあります。
また、国内外で開催される大規模な商談会や、オンラインプラットフォーム「バーチャル焼酎館」など、蔵元と現地ディストリビューターを直接つなぐネットワーク構築も進んでいます。
中国ではJFOODO(日本食品海外プロモーションセンター)が主導し、焼酎と中華料理のペアリング類型表を開発するなど、科学的なデータに基づいた提案も実施。
ロンドンでは、ミシュラン星獲得店のオーナーが運営するすし店で、熟成タイプの米焼酎が採用されるなど、富裕層やアート関係者をターゲットにしたレセプションイベントが実を結んでいます。
こうした「体験」と「学び」を組み合わせた草の根の活動が、焼酎のブランド価値を底上げしているのです。
土地の物語を紡ぐ「地域ブランド」としての飛躍
焼酎の海外展開では、「iichiko彩天」や「DAIYAME 40」のような海外市場を意識した商品開発に加え、その生産地ならではの歴史や文化、風土を伝えるブランディングも重要なテーマとなっています。
その象徴ともいえるのが、「地理的表示(GI)」制度です。GIとは、特定の地域で生産され、その土地ならではの品質や特性を持つ産品を保護する制度で、本格焼酎では「薩摩」「球磨」「壱岐」「琉球」の4地域が指定されています(ただし琉球は焼酎ではなく泡盛)。
これらの名称は単なる産地表示ではなく、地域の風土や伝統的な製法、品質基準を満たした焼酎であることを示すブランドとして機能しています。
海外市場では、商品の背景にあるストーリーが購買の決め手となるケースも少なくありません。そのため、蔵元や業界団体は、原料の特徴や歴史、職人技などを積極的に発信し、「どこで、誰が、どのように造っているのか」という付加価値を伝える取り組みを強化しています。
また近年は、伝統を守りながらも海外の消費者に親しみやすいブランディングを取り入れる動きも見られます。
たとえば、南山物産が展開する「SHOCHU REPUBLIC」は、ポップなラベルデザインやわかりやすい商品名を採用し、抹茶やロングペッパー(ヒハツ)などの副原料を使用したリキュールとして展開。焼酎に馴染みのない海外の若年層にも、手に取りやすいブランド作りを進めています。
伝統を継承しながらも海外ニーズに応じて柔軟に進化していく姿勢は、焼酎が世界市場で成長していくための重要な要素といえるでしょう。
まとめ
焼酎の海外展開は、単なる輸出拡大ではありません。生産地の風土や歴史、職人技に裏打ちされた日本の伝統を世界へ届ける挑戦でもあります。
バーやカクテル文化への進出と融合、新しいネットワーク構築やバイヤー招致、「地域の物語」としてのプロモーション活動などを通じて、新たな市場を切り拓くSHOCHUの挑戦はこれからも続いていくでしょう。