アジアへの日本酒輸出量増加 タイ、シンガポール、中国、韓国、香港から見る実情

国内における日本酒の出荷率は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、やや減少傾向にあります。

しかし輸出は好調で、特にアジアへの輸出量が増えています。

そこで今回は、アジアでの日本酒人気の実態について紹介していきます。

日本酒の海外への輸出額

2021年の日本酒造組合中央会の発表によると、日本酒の輸出額の総額が12年連続で最高記録を達成しました。

輸出総額は前年度から大きく数値を伸ばして241.41億円から166.4%増の410.78億円を記録。

数量も前年比より147.3%増の32,053キロリットルと、過去最高を記録しています。

国別の1位はアメリカですが、2位から5位までが中国、香港、台湾、韓国とアジアが占めているのが特徴です。

とくに香港の伸び率は高く、10年前から比べると426%も増えています。

金額で見ると、1位は中国で、2位がアメリカ、以下香港、シンガポール、台湾の順番となっており、国別でも金額別でもアジアの占める割合が多いことが分かります。

なぜアジアで日本酒が人気なのか

では、なぜアジアで日本酒の人気が高まっているのでしょうか?

要因の1つとしては、日本食レストランの増加が挙げられます。日本食レストランでは日本酒が飲まれることが多いため、レストランの数が増えるとともに日本酒の需要も高まりました。

2021年に急激に輸出量が増えたのは、コロナ禍から営業を自粛していた日本食レストランが営業を再開し、注文が増えたことも要因の1つに挙げられています。

では、国別に日本酒の人気が高い要因や好まれている銘柄などを見てみましょう。

タイ

タイでは所得の増加や健康志向の高まりなどを受けて、日本食ブームが起きています。

日本食レストランの増加が要因の1つ

首都バンコクだけでなく地方でも日本食レストランの数が増加しており、2021年には地方の日本食レストランの数がバンコクよりも上回りました。

タイでは酒を飲む人の6割以上がビールを飲んでいますが、国全体の日本食ブームで、日本酒を飲んだことがある人が増えています。

JETRO(ジェトロ:日本貿易振興会)の調べによると、日本酒を飲んだことがあるタイ人は22.3%で、その中の60.7%が「タイ人の口に合う」と答えています。

宗教上の理由で酒を飲まない人も多い

しかし、タイでは9割以上の人が信仰する上座部仏教の教えに「酒を飲まないこと」があるため、国民の3分の1は酒を飲みません。

住んでいる地域によっても飲酒率が異なり、南部は禁酒率が高く、北部や北東部は女性の飲酒率が高い、バンコクはタイで1番飲酒率が高い、などの違いがあります。

シンガポール

シンガポールはアジアの中でも裕福な国で、国民1人あたりのGDP(国内総生産)は日本よりも高い国です。

シンガポールでも日本酒の知名度は高まっており、日本食レストランをはじめ、フレンチやイタリアン、中華のレストランでも日本酒を提供しているところがあるほどです。

日本酒を飲むのは経済的に余裕がある女性が多いのも特徴の1つで、20代から40代まで幅広い層の女性に好まれています。

好まれている銘柄が変わりつつある

シンガポールで最も有名な銘柄は「獺祭(だっさい)」「楯野川」「黒龍」「十四代」などの純米大吟醸です。しかし、近年では純米大吟醸以外の日本酒の知名度も広がりつつあります。

国民性により高い日本酒も買う

シンガポールには「キアス」と呼ばれる「負けず嫌い」のような国民性があり、食費にもお金を惜しみません。

「日本酒は高くても買う」という認識があり、近年では1本が約8,500円以上するものも売れるようになっています。

中国

中国では日本酒がブームとなっており、日本からの中国向け日本酒の輸出量は、コロナ禍の悪影響が出た2020年以外、すべて増加しています。

2021年にはついに7,268キロリットル(前年比52.3%増)、102億8,000万円(前年比77.5%増)を記録しており、日本酒の輸出先でNO.1となっています。

高い銘柄も売れる

中国の日本酒に対する輸入関税は40%と高いため、販売価格も日本で購入する際の価格の2倍以上しますが、それでも日本酒はよく売れており、品切れの銘柄も出るほどです。

日本食レストランが増えている

中国で日本酒が飲まれている理由には、やはり日本食レストランの増加が挙げられます。

近年では北京や上海以外の内陸部の都市でも質のよい日本食レストランが増え、日本酒を飲む機会が増えました。

また、日本へ旅行して日本酒に触れ、日本酒のおいしさに目覚めて帰国後も中国国内で日本酒を求める人や、コロナ禍で日本に行くことができなくなったので、国内で日本酒を飲む人も増えています。

獺祭ブームで認知度アップ

日本酒人気のもう1つの理由は、「獺祭」がブームになり日本酒の認知度が上がったことです。

日本酒はさっぱりしているので、中国でよく飲まれていたアルコール度数が40以上もある「白酒」よりも人気が出ています。特に、気軽にお酒を楽しみたい若者に好まれているようです。

韓国

韓国でも日本食ブームにより日本酒の知名度が高くなっていましたが、近年ではWell-Being志向が高まったことで日本酒ブームがさらに広がっています。

Well-Beingにマッチ

Well-Beingとは、直訳すると「幸福」「健康」という意味です。ただ身体が健康である、ということではなく、精神的にも社会的にも満たされた状態のことを言います。

日本酒はアルコール度数が低めなので、Well-Being志向の人にも好評です。

関税が高いため価格も高い

日本酒の普及における問題点の1つに、関税の高さがあります。

韓国では日本酒を日本から輸入すると4つの税金が課せられるため、販売価格が日本の3~5倍と高額です。店頭で販売する場合には、人件費などが上乗せされさらに高額になるため、日本酒の普及における問題点の1つに挙げられています。

香港

香港では、日本酒の輸入量が大幅に増えてきています。

酒税完全撤退がきっかけの1つ

香港で日本酒は「獺祭」や「久保田」「十四代」などの超有名銘柄しか扱われていませんでした。しかし、2008年に酒税が完全撤廃され、アルコール度数が数パーセント未満のお酒には税金がかからないようになったことがきっかけで、安くておいしく質も高いお酒が取り扱われるようになりました。

その結果、地酒専門のバーや居酒屋など気軽に日本酒を楽しむことができる店が増え、いろいろな日本酒が扱われるようになったのです。

米食文化で香りにも敏感

香港で日本酒が浸透した理由の1つとして、日本と同じ米食文化であることも見逃せません。

米食文化がないヨーロッパやアメリカなどと異なり、料理と日本酒のペアリングがたやすく、抵抗なく受け入れることができたのです。

香りに敏感な人が多いため、酸味を感じるものよりも甘いさわやかな日本酒が人気を集めています。

香港日本酒業連合会の設立

また、2021年には香港で初めて、日本酒連合会である「香港日本酒業連合会」(The Federation of Japanese Sake Industry of Hong Kong)が設立され、日本酒の普及や発展を促進しています。

まとめ

日本酒は、海外への輸出額が12年連続で最高記録を達成しています。

中でもアジア諸国は日本酒の人気が高く、これからますます輸出量が増えることが期待されます。

アジアでの日本酒人気が広まるにつれて、世界中にその波が拡大していくのではないでしょうか。

シェアする