不買運動の終息か 日本のビールが韓国で売り上げを伸ばす
2019年に韓国で日本製品の不買運動が始まり、2年以上にわたり消費対象から外されてきた日本ビールの輸入量が再び増加しています。
それでも予想以上に長期化した不買運動の影響から、日本のビールを韓国で販売するのは時期尚早と思われるかもしれません。
この記事では、不買運動以前に日本のビールがどれほど指示されてきたのかを紹介すると共に、長期化した不買運動の影響を払拭する最近の状況をお伝えします。日本のビールが好まれ続けていることがわかり、明るい展望を抱いていただけるのではないでしょうか。
韓国で日本のビールが人気の理由
韓国で最もよく飲まれているお酒はビールです。そして不買運動以前、日本のビールを一番多く輸入していた国は韓国でした。
次からは、韓国のビール事情について詳しく見ていきましょう。
韓国産のビール事情
韓国国内で人気のお酒は、およそ50年の間に大きく変化しました。
1966年にはわずか5%だったビールの消費量が、2014年の調査ではマッコリと焼酎を抑えて、58.7%まで増加し、アルコールの中で一番飲まれるようになります。
その後も韓国国内でビールの消費は増え続け、2016年にはビール市場は約2810億円になり、前年よりも約5%も増加し、2020年以降も季節を問わずビールが最も高い人気を維持しています。
参考:KONEST「韓国のビール事情」
ビールがこれほどまで飲まれるようになった背景には、いくつかの出来事があります。
1988年に開催されたソウルオリンピックでビールの消費が大きく伸び、2010年頃から盛んにビールが輸入されるようになりました。様々な国のビールが身近になり、コンビニエンスストアなどで気軽に買えるようになると、薄い味が主流だった韓国産ビールに大きな変化が訪れます。
韓国で2大大手と言われるハイト真露、OBビールと一線を画すように、ドイツのホップを使用しオリジナルの製法にこだわった本格的なラガービールがロッテチルソン飲料から販売されます。従来の軽いテイストとは異なる美味しさが人気となり、大手メーカーも追従するようにホップ100%のビールの販売を開始します。
また、酒税法が改正されたことで、規模の小さい酒造メーカーでもビールの販売ができるようになりました。多種多様なビールが製造されるようになり、韓国でもクラフトビールブームが訪れ、ビールの人気と消費量が上昇します。
不買運動以前の韓国における日本のビール人気
韓国国内で着実に国産ビールの需要が増える中、日本のビールもその地位を不動にするほど人気が高まっていきます。
2016年に在韓国日本大使館と韓国の輸入会社が共同で「ソウル・サケ・フェスティバル」を開催しました。日本全国の100を超える酒蔵の地酒が試飲できるこのイベントは、有料にもかかわらず、若い世代を中心に約4000人が参加しました。
海外で開く日本酒関連のイベントでは最大規模と言われていますが、日本酒以上に韓国で注目を集め、「市民権」を得ているとまで評価されるのが日本のビールです。
様々なSNSでも日本のビールがハッシュタグ付きで投稿され、季節限定の商品も数多く話題に上がり、多くの韓国人が日本のビールを身近な飲み物として好んで購入していました。
不買騒動以前の日本のビールシェア
2009年から2019年まで、日本のビールを最も多く輸入していた国は韓国であり、2017年には総輸出量の約63%に当たるおよそ80億円のビールが韓国に輸出されました。
2015年に行われた韓国農林水産食品流通公社の調査によると、韓国が輸入したビールの内、約27%が日本のビールになり、ビールの本場であるドイツやベルギーからの輸入量を超えました。
2017年には、韓国国内で輸入ビールが韓国のビールより売り上げを伸ばし、ある大型スーパーでは日本のビールメーカーが2年連続トップを独走するほど人気が高まりました。
ドイツ産などのビールを凌ぐほど日本のビールが売り上げを伸ばした背景には、韓国で日本文化そのものが支持されるようになったことが強く後押ししたと言えるでしょう。
2017年には、約714万人の韓国人が日本へ旅行に来ていますが、この数字は、2016年よりも40.3%増加しています。日本へ旅行に出かける韓国人が急増し、日本文化そのものにも親しみを感じてもらえる機会が大幅に増えました。
参考:自治体国際化協会 ソウル事務所「韓国人に対する「地酒」の PR 方策について」
不買運動の影響
2019年7月、日本政府が韓国に対して半導体の材料に関する輸出管理を強化すると、韓国国内で日本製品の不買運動が始まります。
その対象となった商品は、衣料品、自動車、食品、そしてビールなどが挙げられます。
輸入量がゼロにまで下がった日本のビール
好調だった日本ビールの輸出量が、韓国で急激に減少します。7月には約6億4000万円輸出していたビールが、翌8月には5009万円まで落ち込み、9月は100万円以下になり、統計上は10月の輸出量はゼロになります。
11月に輸出量ゼロを更新することはなかったものの、輸出総額は約700万円にとどまりました。
時を同じくして、韓国人の総旅行者数は増加しているのにもかかわらず、2018年には一番人気の旅行先だった大阪への予約が2019年には86%も減少します。
多種多様な日本のビールが陳列されていたコンビニエンスストアや大型スーパーの棚には、韓国産や中国産のビールなどが並べられ、日本のビールにとっては予想以上に長い不買運動に入ります。
好調の兆しが見えだす2021年の状況
2021年3月、日本のビールが韓国で売り上げを伸ばし始めたことが、韓国の酒類業界と関税庁が発表したデータからわかります。2020年1月には、139トンだった輸入量が2021年1月には、6.7倍の1072トンにまで増加し、不買運動開始からはじめて1000トンを上回りました。
ようやく回復を始めた日本ビールの消費量は韓国の大手新聞社も注目して「息を吹き返す日本ビール」と題して記事を上げています。
日本のビールの売り上げが伸びた背景には、コンビニエンスストアでお得になるまとめ売りが再開したこと、コロナ禍ということもあり自宅でビールを飲む人が増えたことが上げられています。まとめて購入すると他のビールと同じ価格になるため、消費者にとって購買意欲が上がります。
また、人の目が気にならない自宅でなら、日本のビールも飲みやすいとの声もあるようです。
今後韓国で日本のビールはどうなる?
2022年に入り、日本産ビールの輸入量は順調に成長傾向にあり、2021年の同時期と比較すると22.4%も増加しています。
同じように、2019年の不買運動の対象となっていた衣料品や食品は、有名ブランドやアニメのキャラクターとコラボレーションするなど、着実に売り上げを伸ばしています。日本車も販売台数を増やし、黒字に転換したメーカーもあります。
不買期間が長かったために、以前と同じような状況に戻すにはもう少し時間がかかると思われますが、日本のビールが減少している現状に対してがっかりする声なども聞かれ、確実に韓国国内で日本のビールを含めた日本製品への購買意欲がうかがえます。
韓国の人たちが日本のビールを含めた日本文化に対して、あらためて心を開いていることがわかるアンケート結果があります。不買運動後には圏外にまで下がっていた日本への旅行が、コロナ後に行ってみたい外国で一番に選ばれました。
また、2021年3月、日本の旅館を再現したような宿泊施設「友のや」が韓国にオープンしました。建物の外観、畳や床の間のある客室、ひのきを使った露天風呂などのハード面だけではなく、自由に選べる浴衣やこだわり抜いた和食を提供するなど、ソフト面でも「和」にこだわり抜いた旅館です。
海外旅行に気軽に行けない状況も要因となり、不買運動中でありながら連日満室となる人気の宿として注目を集めています。
まとめ
複雑な国の政策などが絡み合いながら、今回の不買運動は長期化しました。それでも、韓国の人々の間で日本のビールや日本の文化と親しんできた長い時間や体験が明るい未来を模索する礎となる希望が見られます。
以前のように、様々な国のビールと一緒に陳列棚に並び、日本のビールを美味しいと思う人が迷わずに日本のビールを購入する、そしてSNSで季節ごとに日本のビールが連日タグ付けされるようになる日が、近づいているのではないでしょうか。