日本の「うま味」が世界を席巻!ヴィーガンと高付加価値戦略で挑む昆布のグローバル市場
日本にとって「昆布」は、料理の具材として食べたり、出汁をとって深い味わいを引き出したりする万能食材です。また、「よろこんぶ」などの語呂合わせがあるように、昔から縁起物として利用されてきた伝統的な食材でもあります。
その昆布が現在、天然の「うま味」食材として世界の高級レストランなどで使用されるようになっています。また、ヴィーガンやベジタリアンといった食の多様化や健康志向の高まりを受け、個人レベルまでその認知度を広げています。
この記事では、日本産昆布がどのようにしてグローバル市場で成功を収め、今後どのような展望が考えられるのか、現状の課題とともに詳しく解説します。
昆布がグローバル市場で成功した理由と輸出状況
昆布は日本以外の国でも生産されていますが、日本産昆布はグローバル市場で高い需要を確保しています。その成功の理由と現状について詳しく見ていきましょう。
和食ブームがもたらした昆布の価値
日本産昆布が世界市場で高い需要を得ているのは、品質と和食への関心という2つの理由からです。
まず日本産昆布は厚みがあり、豊かなうま味を含む出汁が取れるほか、風味や食感にも優れています。産地ごとに種類・規格・等級が細かく整備され、用途に応じて選べるようになっている点も、海外バイヤーから信頼を得ているポイントです。
日本産昆布は長年受け継がれてきた食文化と加工技術に支えられており、国際市場において「品質が保証されたブランド」として高く評価されています。
また、2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことも昆布需要を後押ししました。和食の土台を支える「出汁」に注目が集まり、昆布への関心も自然と高まったのです。
さらに、インバウンド向けの和食PRや海外の展示会などでの情報発信、日本のアニメ・マンガによる関心の高まりなど、複合的な要因が海外市場の順調な開拓につながったと考えられます。
「天下の台所」の拠点となる神戸港
輸出実績を見ると、昆布輸出は2020年以降、数量・金額ともに右肩上がりの傾向が続いています。2023年には全国で約501トンを輸出し、金額は約11億8,000万円に達しました。
こうした輸出の中心拠点となっているのが神戸港です。神戸港は江戸時代に「天下の台所」であった大阪からの流通経路であり、明治期から昆布を輸出してきた歴史を持っています。
統計を比較できる1988年以降、36年連続で全国シェア1位を維持。2024年1月〜9月期においても、昆布の輸出数量の44.6%、金額の38.7%を占めており、その存在感は揺るぎません。
輸出先を金額ベースで見ると、2024年1月〜9月期の首位は台湾で45.0%、続いてアメリカ合衆国が19.1%、ベトナムが6.1%です。特に神戸港からの輸出に限ると、台湾向けが58.8%と圧倒的なシェアを誇ります。
※出典:神戸税関調査部調査統計課「日本の食文化『和食』の要 昆布の輸出」
アジアと欧米での昆布の受け入れられ方の違い
世界から高い評価を得ている日本の昆布ですが、グローバル市場における日本産昆布の受け入れられ方は、アジア圏と欧米圏とで大きく異なります。
アジア圏では、日本と同様に海藻類を食べる食文化が古くから存在しており、日本の昆布も比較的スムーズに受け入れられています。世界で最も多く海藻類を食べているのは中国であり、韓国でも伝統料理に昆布をはじめとする海藻が使われています。
最大の昆布輸出先である台湾では、日本産昆布は高級品として販売されています。
一方、欧米では出汁そのものが新しい食文化です。和食ブームに伴い、昆布は「うま味成分」であるグルタミン酸が豊富であること、自然食品での味付けによる健康的な食生活にも役立つことから、ヴィーガン・ベジタリアンを中心に利用されるようになりました。
また低カロリーで、食物繊維や鉄・亜鉛といったミネラル、ヨウ素などが含まれているという理由から、スーパーフードとしても認識され、健康やダイエットに関心の高い層にも支持されています。
アメリカでは、2021年にニューヨークで昆布の養殖が合法化され、地元の昆布を使った料理や商品が開発され始めました。
さらに近年では、「環境にやさしい未来の食材」としても昆布が注目を集めています。昆布は育つ過程で二酸化炭素を吸収し、海の環境を守る「ブルーカーボン」としての役割を果たすほか、栽培に淡水や肥料を必要とせずに短期間で育つ持続可能な食材として評価されています。
高付加価値化を支える「産地ブランド」戦略
日本産昆布は世界で高く評価されていますが、近年は海水温上昇や藻場の減少、生産の担い手不足などの影響によって、天然昆布の生産量が減少しているのが事実です。特に天然真昆布は、2021年から漁がなく、危機的状況に陥っています。
今後、安定供給が難しくなっていくかもしれないという可能性を考えると、「量より価値」で選ばれる昆布づくりが重要なテーマとなります。その価値の源となるのが日本独自の産地ブランドで、特に北海道産昆布は種類ごとに風味や用途が異なります。代表的なブランドは次のとおりです。
|種類|特徴|h
|羅臼昆布|茶褐色で濃厚な出汁と豊かな風味|
|利尻昆布|透明感のある繊細な出汁で京料理に好まれる|
|真昆布|厚みと幅があり、澄んだ上品な出汁が取れる|
|日高昆布|柔らかく味も濃厚、おでんや昆布巻きなど煮物に|
これらの特徴は、海外でも「産地によって味が違う」という価値提案につながり、高級レストランを中心に関心が高まっています。
ただし、中国産などとの価格競争が進むなかで日本産が選ばれ続けるためには、さらなる高付加価値化と差別化戦略が欠かせません。現在では、産地証明やトレーサビリティ(生産履歴の追跡)による安心感、ギフト需要や料理用加工品の展開、展示会などでのPRなど、ブランド価値を育てる取り組みが行われています。
また、持続可能な漁業や藻場再生など、環境への配慮も今後の信頼性を左右する重要な要素です。伝統を守りながら、価値を伝えるための発信力を高められるかどうかがカギとなるでしょう。
市場に合わせた昆布の多様な商品開発とは?
日本の昆布は、ヨーロッパの海藻と比較してもうま味成分が強いといわれています。特に日高昆布は、南デンマーク大学の生物物理学教授であるモーリットセン博士の研究対象になるほどです。
この特性を前面に押し出すには、消費者のライフスタイルに溶け込む商品設計と、現地パートナーとの協業がカギとなるでしょう。いくつかヒントを見ていきます。
手軽な出汁パック・昆布エキス
欧米では出汁の取り方を知らない消費者も多いため、簡単に使える「出汁パック」や「昆布エキス」などをスープやソースの隠し味として活用する手法が考えられます。
袋を入れるだけで本格的な出汁が取れるため、動物性素材を避けるヴィーガン・ベジタリアンレストランまたは個人にとって理想的です。
新たな食シーンを演出する昆布パウダー
「昆布パウダー」は、サラダやスープに混ぜるだけでなく、パン生地やパスタ生地に練り込んでうま味とミネラルをプラスできる万能調味料です。特に健康志向の高い欧米では、昆布パウダーが「天然ミネラル補給食材」として人気を集めるでしょう。
異なる食文化とのコラボレーション
昆布を現地料理に取り入れる動きも進んでいます。たとえばイタリアのナポリ料理には、ピザ生地に海藻を混ぜて揚げる「ゼッポリーネ」という前菜料理があります。
これは、青のりなどの海藻がイタリアの沿岸地域で古くから食べられてきたために生まれた料理です。この地元料理を昆布でアレンジすることで、日本産昆布のPRに活用できるでしょう。
またフランス料理界では、ル・コルドン・ブルー日本校のエグゼクティブ・シェフが昆布を使った創作のフランス料理に取り組んでいます。
このような背景から、日本の昆布メーカーは「世界の食文化に溶け込む食材」として、地域ごとに異なる食文化や調理スタイルに対応する形で商品を戦略的に開発していくことが求められます。
まとめ
昆布はうま味の源として、またスーパーフードとして世界的な食材へと進化しつつあります。
特に天然昆布は、養殖では再現しにくい深い味わいや香りを持ち、その希少性からブランド価値をさらに高めることができます。
今後は、天然・養殖を併用した生産構造への転換、環境変化に強い品種育成、そして昆布の価値の国内外への訴求を通じて消費と生産を支える取り組みを行うことが、昆布業界の活性につながるでしょう。